猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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 とにかく今回の一件は情報量が足りない。この場で査定してこそ、目利きのできる古物商なのかもしれないが、しかしまだまだ千早の鑑識眼では、その域には達することができない。実際にいわくに関する現場を訪れることは、ある意味で古物商としての甘えだ――とは、先代である祖母の言葉だ。

「そのようにしていただくと助かります。なにせ、この辺りは日にバスが数本しかありませんから」

 そこまで僻地というわけではないのだが、千早の地域は高齢化が進み、少しずつではあるが限界集落となりつつある。人口もちょっとずつ減っており、若者そのものが少ない。通学には市が運営するスクールバスが出ているものの、この地域でスクールバスに乗るのは、千早と小学生の男の子の2人だけだ。利用者がいないのだから、もちろん運行されるバス少なく、朝、昼、夕方の3本がデフォルトだ。

「では、そのように段取りしましょう」

 その時、班目のポケットから着信音が漏れ出した。班目はスマートフォンを取り出しつつ「失礼」と千早に断りを入れると電話に出る。電話していた時間はほんの1分にも満たない程度で、実に業務的な印象を受けた。

「――申しわけありませんが、署に戻らねばならなくなりました。なにか他に、今のうちに確認しておきたいことなどありますか?」

 きっと話を掘り下げていけば、細かいところなどで確認を取りたいところが出てくるであろう。しかしながら、流れ的におばけマンションにも向かうことなったわけだし、聞きたいことがあればその時で充分であろう。

「いえ、買い取りの申し込み台帳は書いていただきましたし、もう少し動画をじっくりと確認したいので、今日はとりあえず大丈夫です」

 千早の言葉を聞いた班目は「では、連絡を待っています」と片手を挙げると、やや急いでいる様子で店を出て行った。刑事という職業も大変だなと思いつつ、千早はカウンターの後ろにおいてある小さな金庫のほうへと手を伸ばす。右へ左へとダイヤルを回し、カチリという音と一緒に扉が開いたことを確認すると、千早は小さく頷いた。

「急場しのぎだけど見つからなくて良かった――」

 千早はぽつりと漏らすと、金庫の中から盆に入った豆大福を取り出した。忘れもしない、先日の豆大福大量消失事件。目の前にいた刑事が犯人なだけに、絶対にこれを見つかるわけにはいかなかった。風味が半端ではないこれだけは。

 おばけマンションで起きた奇妙な殺人事件。それを収めたハンディービデオカメラが持ついわくを紐解くには、脳に糖分が必要だ。

 班目がいなくなった店内で豆大福を一口。半端のない風味に千早は舌鼓を打った。
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