猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
116 / 226
査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

10

しおりを挟む
「とりあえず今から30分後に約束を取り付けたぜ。まぁ、時間が多少前後しても問題ないとは思うけど」

 大海とのやり取りを終えた一里之は、スマートフォンをポケットにしまいながら千早と班目のほうへと視線を往復させる。

「今から出ればちょうどいいですね。お二方、今日はどうやってこちらに?」

 今度は班目が一里之と愛の間に視線を往復させる番だった。班目のクラシックカーは小さく、おそらくは2人乗りではないのだろうが、後部座席に余裕があるようには思えない。これだけの人数が乗れば車の中はパンパンになるだろう。

「あ、バイクで来てるんで、追っかけますよ」

 相手が刑事だというだけで、少しばかり敬語が出てしまうのが悔しい。そんな班目が安堵の溜め息らしきものを漏らしたのは、きっとクラシックカーにこの人数は乗り切らない――乗れても窮屈になることが分かっていたからであろう。

「それでは、車の助手席へどうぞ。常に空けてあるんですが、中々に座ってくれる人がいなくて張り合いがないんですよ」

 千早に向かってエスコートすると、鍵がジャラジャラとついたキーホルダーをポケットから取り出し、その輪っかに指をかけて鍵束を回す班目。おばけマンションにこれから向かうということは、今日はもう閉店なのだろう。案の定、千早がハンディービデオカメラをビニール袋の中に入れながら口を開く。

「――私は店を閉めてから参ります。先に行ってください」

 班目を筆頭として、一里之と愛は店を出た。すると、中で千早が背伸びをするシルエットが見え、ガラガラと音を立ててシャッターが閉められた。同じ要領でもう1枚のシャッターが閉じられると、しばらくして店のわきから千早が姿を現した。勝手口でもあるのだろう。

「お待たせしました。それでは参りましょう」

 手持ちのバッグを片手に出てきた千早。そのバッグの中には、例のハンディービデオカメラが入っているのだろうか。

 班目の車の運転席には班目、そして助手席には千早が乗り込む。その光景に、なんだか妙な悔しさを覚えるのはなぜなのか。一里之の心を見透かしたかのように、愛が大きく咳払い。ビクンと体を震わせた一里之に「ほら、行くよ」と、ヘルメットを手渡してきた。

 班目の車が走り出し、バイクにまたがった一里之はバイクのエンジンをかける。いつもならば腰に手を回してなんてこない愛が、珍しく一里之に強くしがみついてきた。これなら、いつもよりスピードを出せそうだ。もっとも、刑事様が乗る車の後ろで、ガンガンとスピードを出すわけにもいかないが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

処理中です...