猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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「そのクラスメイトの女子がさ、ちょっとお前に用事があるらしいんだよ。今から時間作れるか?」

 スマートフォンの向こう側でガタリという音が聞こえ、続けて「痛っ!」という小さな叫びが漏れる。きっと、テーブルか何かに着席しており、驚きのあまり勢い良く立ち上がった結果、テーブルに膝でも打ち付けたのであろう。

「あ、ちなみに雛撫高校の女子と遊んでるなら無理強いはしねぇけど」

 大海のリアクションが面白くて、ちょいとばかりからかってやる一里之。女子からモテる大海が、千早のことで慌てる様子を伺うのは、なんだか清々しい。さすがは鋼鉄のガールフレンド様である。

「あー、ほんのついさっきまでは一緒にいたんだけどね。なんだか相模と2人で飯でも食おうということになってね、さっさと追い返して相模と【花レス】にいるんだよ。まぁ、だから時間も作れなくないけど」

 大海の反応を見るに、雛撫高校の女子も捕まらなかったらしい。それで、仕方がなく相模と飯を食いにでも行ったのだろう。ちなみに、大海の言う【花レス】とは【花々の絢爛けんらんたる様相に囲まれ、世に蔓延はびこる悲しみを払拭するレストラン】の略である。都会の人は驚くかもしれないが、妻有郷くらいの田舎となると、チェーン店のファミレスなんてものはない。あるのは個人経営のファミレスであり、この【花レス】は妻有郷唯一のファミレスといっても過言ではない。その、ちょっと中学二年生くらいが抱く黒歴史的な要素の入った店名の割に、メニューには海鮮丼とか、こだわりの茶碗蒸しとかがある。どうやら世に蔓延る悲しみは、海鮮丼や茶碗蒸しで払拭できるらしい。下手すると茶碗蒸しが世界を救うかもしれない。

 ともかく大海に話を聞くことはできそうだ。それを確信した一里之は、指で輪っかを作ってオッケーサインを千早のほうに出した。大海と千早が親しくなるのはしゃくであるが、しかし彼女が大海から話を聞きたいというのならば仕方がない。もしかすると、娘を嫁に出す時の父親というのは、こんな思いをしているのかもしれない。――知らんけど。

「だったら、これから猫屋敷とお前の家に行くからさ。家に帰って待っててくれよ」

「あ、あぁ、分かったよ。ただ、今から帰るとして――せめて30分くらい後にしてくれよ。少しくらい部屋も片付けたいし」

 本題を引っ張り出すと説明が面倒だから、あえて簡潔に話をまとめて大海から二つ返事をもらった。刑事も一緒だとか、事件の話を聞きたいだとか、余計なことは言わなくていい。面倒なことは実際に会ってから、それこそ刑事の班目がうまいことやってくれるだろう。
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