猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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 事件が騒ぎになった際、自分の住んでいるマンションで起きたことを、やや前のめり気味に教えてくれた大海。しかしながら、なんだか重要そうな証言までしていたことは初耳だった。

「なるほど。でも、それだったら猫屋敷。わざわざ俺にワンクッション入れなくても、大海に直接話をすれば良かったんじゃね? 俺のすぐそばに大海もいたわけだし」

 一里之がここに呼ばれたのは、いわゆる大海との橋渡し役である。けれども、大海と千早は赤の他人というわけではなく、れっきとしたクラスメイト同士である。別に一里之でワンクッションを入れずとも、直接やり取りをしたほうが早いように思えるのだが。

「いえ、その――。大海君とは一度も喋ったことありませんし。そんなことを言ったら、クラスで普通に喋ることができるのは一里之君くらいしかいないわけでして」

 相模が破壊力抜群と言っていた、ちょっと恥じらいながら、なんだかモジモジとした感じの千早が現れた。愛の咳払いで我に返ったが、もしかすると締まりのない顔をしていたのかもしれない。

「ま、まぁ――そういうことなら仕方ないよな。で、今すぐに大海に来てもらうようにすればいいか? でも、あいつバイクとか持ってねぇしなぁ」

 相模と一緒にいるのだろうが、千早と親しくなるためならば、なんとしてでも大海はここまでやって来ようとすることだろう。けれども、彼には肝心の足がない。一里之のようにバイクに乗るわけでもないし、バスを使うにしても、もう夕方だ。都会の人からすれば信じられないだろうが、この時間になれば、すでに最終バスが出た後なのだ。

「いえ、今から班目様の車で、実際に事件現場に向かう手筈になっています。大海君は自宅にいてもらって結構。後はその――大海君とお話しできるように、一里之君には根回しをしていただけるとありがたいです」

 千早に頼られるのは悪い気はしない。大海と千早の距離が縮まるのは面白くないが、彼女の頼みとあれば一肌脱がないわけにはいかないだろう。

「愛の事件を解決してもらった借りもあるし、それくらいならお安い御用だ。大海に連絡入れてみるから、ちょっと待ってくれ」

 一里之はスマートフォンを取り出す。大海はあまりメールのレスポンスが良いほうではないから、電話のほうが確実であろう。しばらくコール音が聞こえた後、実に不機嫌そうに「やぁ、誰かと思ったら、親友より女子のクラスメイトのことを優先する純平じゃないか」と、皮肉たっぷりの声がスマートフォンの向こう側から聞こえた。
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