猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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「一里之君。このお話をした時点で、私がお願いしたいこと――おおむねご理解いただけたと思います」

 はっきり言おう。あまり気が進まないと。事件の解決――いや、千早目線で言うのであれば査定になるのだろうが、それに対して協力したくないというわけではない。ただ、裏で鋼鉄のガールフレンドと呼ばれるほどガードが固く、また本人も近寄りがたい空気を出しているため、その存在自体が高嶺の花のようになっている千早。その彼女と親しい……少なくとも言葉を交わす仲であるというのが仲間内でのステイタスとなっているのに、それを無条件で手放すような気がして面白くない。

「ようは正義から話が聞きたいってことだろ?」

 一里之が言うと、千早より先に班目が頷いた。

「その通りです。君のクラスメイト――大海正義君ですが、あのおばけマンションに住む数少ない住人なんですよね? それで、ちょっとお話を伺いたいんです」

 大海は高校生という身分でありながら独り暮らしをしている。親がそこそこの金持ちで、若いうちから自立できるようにと、家を出ておばけマンションに入居させられたとか。なぜわざわばおばけマンションなのかといえば、両親が単純に高級嗜好でおばけなど信じない超現実主義だからとか。実家から徒歩で30分程度。家賃や生活費もろもろは当然ながら親持ちであり、足りないようなら実家に顔を出すだけで、一里之からすれば1桁違いのお小遣いをもらえたりする。まるで自立できる環境ではない。ただ、それを鼻にかけたり、金持ちぶったりしない面があり、だからこそ親しく付き合えているのかもしれない。それはさておき、イケメンで家が金持ちなんて、それだけでハイスペックなやつ――千早と親しくなる必要などないだろうに。

「でも、それだったら警察が話を聞いたんじゃねぇの? 本人も長いこと警察に居座られたって言ってたぜ」

 おばけマンションで起きた事件は殺人事件の方面で捜査されており、ネットでも毎日のように話題に上がっている。まだ犯人は捕まっていないようだが、その異様な状況と特殊な環境に、様々な憶測が飛び交っていた。

「もちろん、事情はお聞きしました。ですが、警察を相手に話すのと、クラスメイトを相手に話すのとでは内容が変わってくるかもしれません。それに――」

「私が直接お話を伺ってみたいのです。今回の査定は情報があるように思えて、重要な情報が大きく欠けていまして。今の状態では、まるでお値段をつけられないんです」

 班目の言葉を途中から奪う千早。その視線はカウンターの上に置かれたハンディービデオカメラに向けられていた。もう考えるまでもなく、これが猫屋敷古物商店に持ち込まれた今回の品なのであろう。
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