猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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 千早はそう言うと、店の奥から古そうな椅子を引っ張り出してくる。もうこの辺りは店の備品なのか売り物なのか良く分からない。カウンターの前に並べられた椅子は、一里之と愛の着席を促していた。

「とりあえず立ち話も申しわけないので――」

 千早に促されて椅子に座ると、カウンターの上に新しめのハンディービデオカメラが置いてあることに気づいた。スマートフォンが普及してから、ビデオカメラの出番が随分と減ってしまったが、しかしこうして販売が続けられているということは、それなりの需要があるのだろう。画質だとか音質だとかが大きく変わってくるに違いない。

 椅子に座ると千早がお茶を出してくれた。しかし、お茶受けは残念ながら豆大福ではない。きっと、この場で豆大福が出てこないのは、この班目という刑事がいるせいだ――と、ついさっき食べてきたばかりなのに、豆大福に対する執着心が顔を覗かせる。

「それで、話ってのは?」

 お茶を一口すすると千早に問う。彼女のほうから店に呼びつけたのだ。当たり前だろうが、それなりに理由があるのだろう。もし、一里之に淡い恋心を抱いていて――というのならば、愛まで連れてこいとは言わないだろうし、そもそも刑事も同席しないことだろう。

「それに関しては私のほうからお話させてもらいます。さて、突拍子もない話なのですが、ラクレスってご存知ですか? 無茶なことをやって、それを配信しているグループなんですが」

 ラクレス――。その存在は以前より知っている。もちろん、配信を毎回見るような熱狂的なファンではないが、しかし名前はもちろんのこと、どんなことをやっている連中なのかは知っていた。それに、一里之にとっては、かなりタイムリーな名前だ。

「あぁ、知ってるよ。ってか、最近こっちのほうでライブ配信している最中に、リーダー格のカネモトが死んだんだろ? 俺の周りでも話題になってたし、その時の動画もネットに出回ってるからな」

 実のところを言うと、一里之が事件のことを知っているのは、ライブ配信を見ていたわけでもなければ、ネットニュースを見たわけでもない。ごくごく身近な人間が、やや興奮気味に教えてくれたのだ。

「えぇ、その通りです。現場となったのは【グランメゾン妻有】と呼ばれる、この辺りでは珍しい高層マンションです。別名――」

「おばけマンション。別に誰が死んだとか、事件や事故があったとかじゃなくて、立地条件がそこまで良いわけでもないくせに、高級マンションぶって家賃が高いから、入居者が極端にいないだけ。ほとんどが空室のせいか、パッと見た感じ廃墟みたいに見えるから、いつしかおばけマンションと呼ばれるようになったとか」

 班目の言葉を遮って、その先を言ってしまう一里之。どうして一里之がおばけマンションについて詳しいのかというと――。なんとなく、自分がここに呼ばれた理由が分かったような気がした。
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