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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】1

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【1】

 放課後を告げるチャイムほど、解放感に満ちたものはないだろう。もっとも、今日の数学は特に難解であり、それは一里之にとって目覚めのアラームにもなったのだが。授業終わりの慌ただしさの中で顔を上げると、大きく背伸びをした。これにて本日の業務は終了である。さっさと帰りの支度をしなければ。

 基本的にノートやら教科書は学校のロッカーに置きっぱなしというスタンスの一里之にとって、学校に持ってくる荷物というのは極端に少ない。昼は基本的にコンビニで買ってきたパンなどがメインであり、だから鞄の中もほとんど空だ。帰りの支度もへったくれもない。

「純平。お前、今日暇?」

 帰り支度を数秒で済ませてしまったところに、クラスメイトの相模大地さがらだいち大海正義たいかいまさよしがやってきた。クラスの中でも仲が良く、つるんでいるメンバーである。相模は部活はやっていないものの趣味は筋トレであり、ガッチリとした筋肉質な体格に、ほぼ丸坊主という風体をしている。眉毛が元より薄く、また目が細いためか、まず初対面の人間はビビるだろう。大海に関しては、クラスで1位か2位を争うイケメンというやつである。そのせいか、女性関係について、あまりよろしくない噂も聞く。甘いマスク――とでも言おうか。女性が好みそうな中性的な容姿に長身という、天は二物を与えずなんて嘘だと証明したような人間である。

「ん? まぁ特に予定はないけど――」

 そう答えると同時に一里之はどこからか視線を感じた。ふと、相模達の背後に千早の姿があったことに気づく。彼女は相模達のことなど気にせずと言った具合で近づいてきた。一時期、歩く度にシャカシャカと音が出るナイロンのズボンをスカートの下に履いていたのであるが、思った以上にシャカシャカ感が半端なかったのであろう。衣替えの時期と同時に、またスカートの下は黒タイツへと戻っていた。制服は夏らしい白基調のセーラー服になったが、彼女のトレードマークは健在だった。夏なのだから、いっそのこと黒タイツも履かなければいいのに――と思うのは、もしかすると単なる男の願望なのかもしれない。

「あの、一里之君。今日、少しお時間ありますか?」

 千早が自然に一里之へと話しかけてきたことで、相模と大海の視線が一気に一里之へと集中する。

「うーん、今のところ別に予定はないけど」

「ならば、少しお願いしたいことがございます。お手数をかけますが、店までいらして下さるとありがたいです」

 相模と大海の視線が千早のほうへと動き、そしてまた一里之のほうへと戻ってくる。その表情は明らかに驚いていた。なんだろうか、このとてつもない優越感のようなものは。
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