猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【プロローグ】

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「ん? ちょっと待って。お前がここにいるってことはさ、5階から1階の間には誰も配置されていないってこと?」

 カネモトの問いに、こちらもようやく笑いの波が引いたであろう博士が「その通りだ」と答えると、カネモトは手を叩いて笑う。

「配置バランス悪くね? 通り過ぎるだけかもしれねぇけど、5階から1階までの間だけやけに手薄なんだけど!」

 一度笑いのツボに入ってしまったから、本人ではどうにもならないのであろう。カネモトに拍車をかけたような勢いで、博士の笑い声がかぶる。

「お、大人の事情ってものがあるのだ! だからカネモト、5階から1階の間じゃ喰われるなよ。何かあっても助けには行けないからな!」

 悪ふざけのやり取り。それは呼吸を整えながら漏らした「よし、そろそろ行くか――」との、カネモトの一言で終わった。この辺りの時間配分というか、前置きからの運びなどは、ある程度計算されていることだろう。

「では、今から人喰いエレベーターを呼びまーす」

 カネモトがエレベーターを呼び出す。エレベーターの箱は9階にあるようで、各階数をひとつずつ通過して、徐々に1階へと近づいてくる。

「あのさ博士。さっきも思ったんだけど、このエレベーター遅くね?」

 振り返ったカネモトを映したカメラは、そのまま階数表示へとズームアップ。ゆっくりとしたペースで移動する階数表示のランプは、まだ5階にあった。

「ざっと事前に調べてみたんだが、このエレベーターは……1階から9階に到着するまで、軽く1分はかかる」

 博士の言葉を待っていたかのように、手を叩いて笑うカネモト。そこまで爆笑というわけではないが、カメラに向かってピースサインを作り「往復2分以上です」とキメ顔らしきものをする。そんなやり取りをしている間に、ようやくエレベーターが到着。合わせ鏡の不気味な空間が口を開けた。

「うわ、これずっと乗ってたら頭おかしくなりそうだな。なんでこんな内装にしたし」

 そう言いながらエレベーターに乗り込むカネモト。カメラはカネモトの後ろ姿を追いつつ、少し引いてエレベーターの全景を映した。

「では、無事に戻ってくることを祈る」

 カメラを構える博士が敬礼でもしたのか、振り返ったカネモトは足元を揃えて敬礼をすると「それでは視聴者のみなさま! 行って参ります!」と声を張り上げる。それを遮るようにしてエレベーターの扉がゆっくりスライドし、そしてカネモトは人喰いエレベーターの腹の中へと飲み込まれた。
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