猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【エピローグ】

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 正確な金額が決まっているわけではないが、査定した品物の査定額を基準に、おおむねで何割かを査定手数料として提示することの多い千早。だとすれば、今回の査定でもらうべき手数料は――ゼロということになる。なんせ、一銭の価値もないと【惨殺アイちゃん】に突きつけてしまったのだから。

「えっ? それって……」

「今回のお代はいただかないということです。まぁ、クラスメイト割引ということで」

 そう言って一里之のほうを一瞥する千早。本当ならば少しでも代金をもらうのが商売として正しいのかもしれないが、今回は査定という意味合いの他に、やはり【惨殺アイちゃん】のことが許せないという思いが強かった。すなわち、千早は珍しく、査定ではなく事件の解決を優先して動いていたのだ。それなのに、査定手数料なんてもらえない。それに――高校生が金を持っていないことは痛いほどに分かるし、そんな懐事情の中に無理矢理手を突っ込むような真似はしたくなかった。

「ほ、本当にいいの? あれだけのことをしてもらっておいて」

 驚いたように目を丸くしたまま、今度は困惑するような表情を見せる愛。事件をひとつ解決して、その見返りがないというのはおかしなことなのだろうか。

「はい、お代はいりません」
 
「で、でも――なんか悪いよ」

 千早の反応に対して、さらに困ったような顔をする愛。そんな彼女の肩を一里之が叩いた。

「まぁ、猫屋敷がそう言ってくれてるんだし、ここは素直に甘えようぜ」

 その言葉に納得はしていないようだったが、こちらが譲らないことくらいは察してくれていたのであろう。しばらく考えた後、愛はぽつりと「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな……」と漏らした。続いて「よし!」と声をあげると、スイッチを切り替えたかのごとく椅子から勢いよく立ち上がった。ここまで極端なスイッチの切り替えは、もしかすると初めて見たかもしれない。

「それじゃあ、あれから事件がどうなったのか報告。まずね、これは爽快だったんだけど、全体集会で風紀委員会が生徒に向けての謝罪をしたの。犯人が学校の警備員だったということが分かってから、生徒の一部から今回の風紀委員会のやり方は、あまりにも行き過ぎたものだったんじゃないか――って声が上がって。まぁ、実際に犯人でもなんでもない人を吊るし上げにしてたんだから、そう言われても仕方がないよね。その声が大きくなりすぎたおかげで、全体集会で風紀委員会が謝罪するって流れになったみたい」
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