猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【解答編】

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 架空上でチェスをしているかのごとく、相手の打ち筋の何手も先を読んで、決定的な一打を決める千早。もはや言いわけにしか聞こえない反論でさえ、しっかりと逃げ道を塞いだ上で追い詰める。

「つまり、両者共に凶器がカッターナイフであると露呈してしまうと不都合なんです。だから、そこから情報が外に漏れたとは考えにくい。では、どうしてあなたが凶器のことを知っていたのか。それはもう、あなたが【惨殺アイちゃん】である以外に理由は考えられません」

 おっさんはそこでようやく思い出したかのように、玄関の明かりを点けた。これまで逆光気味に映っていた姿が明らかとなるが、そこにいるのはスウェット姿の中年男性のみ。みずから【惨殺アイちゃん】などと名乗り、今時の女子高校生を装ってメッセージなどを残していたようには見えない。想像するだけで吐き気がする。

 ――千早が放った決定打に、おっさんは完全に沈黙した。玄関の明かりに照らされたその表情は無表情であり、ただただゆっくりと千早達の顔の間に視線を往復させている。ぴたりと首の動きを止めると、実に気味の悪い笑みを浮かべた。

「だったらどうする? 警察に突き出すか? でも、カラスは野生のやつを捕まえたし、タヌキも山の中で狩ったもの。まぁ、せいぜいウサギは学校側の所有物だったとして、どうやって被害を訴える? 学校は事を大きくしたくないようだし、唯一の被害者である学校側が被害を訴えない限り、この【惨殺アイちゃん】を罪に問うことはできないんじゃないかなぁ? 仮に罪に問えても器物損壊罪がいいところだよ?」

 それはもう、完全なる開き直りというやつだった。どんなに悪い方向へ転がったところで、そこまで大きな罪にはならない。それに、訴えるべき立場の人間は千早達ではないのだ。あくまでも学校側が訴えねば罪には問えないようだ。

「それは、認めるということですね? あなたが【惨殺アイちゃん】だということを――」

 千早が静かな口調で確認すると、おっさんはピースサインを目元に近づけ「そうでぇーす」と、ウインクをした。同性から見れば明らかに痛いし気持ち悪い。異性である千早や愛からも、決して好印象には受け取られないだろう。

「でしたら、先に赤祖父様から持ち込まれたカッターナイフの査定結果をお伝えさせていただきます。自分より弱く、また抵抗できない動物に対する非道なる行為、また万が一にも罪に問われても軽いもので済むように抑止した殺戮衝動。実に人間の汚らわしい部分を浮き彫りにした――いわくつきの品だと思われます」
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