猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
81 / 226
査定2 惨殺アイちゃん参上【解答編】

7

しおりを挟む
 一里之は、パッと聞いただけの警備員の名前で五十音順を作り出していた。タイムカードのホルダーの一番上に【今井】で、そこから二人の【河合】と続いて、最後に【万丈目】となる。ほら、しっかり五十音順になっているではないか。一里之はそう思ったのであるが、愛の見解は違うらしい。

「一見して五十音順になっているように思えるけど、もしそうなら【河合あさお】と【河合秋人】の順番が逆じゃない? 苗字が同じなわけだから、五十音順に並べるには名前を基準にしなければならないでしょ? となると【あさお】より【秋人】のほうが五十音順的には先になる。だから、タイムカードは【今井芳樹】【河合秋人】【河合あさお】【万丈目鯖虎】の順番で並べられていなければならない。でも、実際の並びは【今井芳樹】【河合あさお】【河合秋人】【万丈目鯖虎】だったわけでしょ? ほら、厳密には五十音順になっていないわ」

 一里之は伝聞だけで推測したがゆえに気づかなかったが、実際に現場で色々と見聞きしてきた愛は、その違いに気づくことができたのだろう。確かに、言われてみれば、一見して五十音順に並んでいるようになっているが【河合あさお】と【河合秋人】の並び順が逆だ。本来ならば【河合秋人】が先に来てこそ、五十音順になる。

「いいえ、五十音順になっているんですよ。ただ、先ほども言いましたけど、私達が勝手に思い込み、そして勘違いしていただけ――。事実、もう一人の河合さんに聞いたところ、あっさりと私達のしていた勘違いが判明しました」

 千早達がしていた勘違い。正確に並んでいないはずなのに、しっかりと五十音順に並んでいるという警備員の名前。一体、千早達は何を勘違いしていたのか。学校に同行できなかった一里之は、どうしても蚊帳の外みたいになってしまう。

「時に日本の苗字というのは面白い決まりがあったりします。例えば五十嵐と書いて【いがらし】と読む時もあれば【いからし】と読む場合もあります。桑原と書いて【くわばら】や【くわはら】と、同じ漢字を使った苗字であっても、その家ごとに読み方が異なっていたりするんです。それと同じことが、警備員の詰所という狭いコミュニティーで起きてしまっていたんです」

 千早はそこで言葉を区切ると、視線の向こうの男を睨みつけるように目を細める。教室の隅で静かにしている彼女がやるような仕草ではない。それだけ、今回の事件に関して千早個人で怒りを感じているのだろうか。

「あなたと同じ警備員に河合さんという方がいて、彼が【かわい】さんだからこそ、同じ漢字のあなたのことも【かわい】さんだと思っていました。一見して順番通りになっているように見えない五十音順の謎。そして名前には【アイ】の二文字が含まれているという条件。これらを解決するのは簡単。つまり、あなたは元々【かわい】さんではないということです。そうですよね――【】さん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

消えた弟

ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。 大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。 果たして消えた弟はどこへ行ったのか。

処理中です...