猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

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 堺先生からすれば、千早は見たこともない女子生徒である。教師が全ての生徒を把握しているとは思わないが、見ず知らずの女子生徒から、いきなり犯人扱いされるのは誰だって嫌だろう。

「しっ! 失敬な! 私が【惨殺アイちゃん】であることなんて断じてない!」

「では、どうして現場からカッターナイフを持ち去ったのですか?」

 愛が強引なやり方をしたせいか、やや興奮している様子の堺先生は、千早の物言いすら面白くないらしい。

「そ、そんなこと生徒には関係ないこ――」

「ですが、事件が解決していないがゆえに、苦しんでいる生徒がいるんです。教師として、その辺りのことはどうお考えでしょうか?」

 彼が喋っている最中に口を挟むものの、あえてゆっくりとした口調で話す千早。売り言葉に買い言葉ではないが、相手と同じテンションでやり取りをしても、相手が落ち着いてくれることはない。相手に落ち着いてもらうには、まずこちらが落ち着いた様子を見せることが重要である。

「そ、それは……」

 徐々に堺先生は落ち着きを取り戻しつつある。愛が余計な刺激を与えないように、手招きをしてそばに引き寄せた。

「もし先生が【惨殺アイちゃん】でなければ、お話し願いませんか? 先生はどうして、カッターナイフを持ち去ったのでしょう?」

 こうして先生相手に交渉することができるのも、他校の生徒という強みがあるからなのかもしれない。自分の学校の先生が相手となれば、その先の学校生活のことも考えて、強気に交渉に出るなんて真似はできないだろうから。

「実は私の妻の両親がね、文具品を作る工場をやっているんだ。大手とは違って小さな小さな工場をね。50周年記念のカッターナイフは、実は私が仲介として間に入って、妻の両親の工場に生産をお願いしたものなんだ。学校側からすれば、できるだけコストを削減できるように、妻の両親からすれば、この不況の中で少しでも仕事ができるようにと、私がとりはからったつもりだ」

 堺先生はそういうと、少し嬉しそうにかすかな笑みを浮かべる。

「その甲斐もあってか、コストも低く抑えることができた上に、デザインや機能性などが、学校長をはじめとして他の先生方から高く評価されてね。まだ少し先の話だが、来年度辺りから学校で使用する文具の一部の生産、販売を妻の実家にお願いできないかという話が持ち上がっていたんだ。妻の両親もそう若くはないし、業界は大手に食いつぶされて零細企業は先細りするばかりだ。両親のことを心配していた妻にとって、そしてその妻の旦那である私にとっても、学校からの申し出はありがたかった」
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