猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

40

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「いやいや、俺達の中でも大ベテランの人だから、笑っちゃ悪いって思ってるんだけど、やっぱり鯖虎はないわぁ!」

 我慢できなくなったのであろう。秋人はそこで吹き出すと、それでも懸命に笑いを堪えようとするものだから、実に気味の悪い笑い方になる。愛と顔を見合わせて溜め息を漏らす千早。あまり時間がないのだから、さっさと話を聞かせて欲しい。秋人が落ち着いたタイミングを狙って、千早は話を切り出した。

「それで、本題なのですが――。カラスの死体を見つけた時の話をして欲しいんです」

 今は笑っている場合ではないことに気づいただろう。千早に言われてバツの悪そうな顔をした秋人は、大きく咳払いをした。

「あれはまだ俺がこの仕事を始めてすぐのことだったと思う――」

 秋人は遠い目をしながら、カラスの死体を発見した時のことを話してくれた。発見者の視点から語られる話には、あらかじめよそで聞いたものよりリアリティーがあった。

「で、それをきっかけに事件が始まったんだ。タヌキの生首が校門の前に置かれていたり、ウサギ小屋のウサギが刃物のようなもので切りつけられたりね――。いち警備員としては、早く事件が解決して欲しいんだけどね。動物が殺されても器物破損程度の罪にしか問えないらしいし、学校側も世間体の都合上、あんまり事を大きくしたくないみたいだし。雇われ者の辛いところだよね。もし俺が本気を出したら、犯人なんてすぐに捕まえることができるのに。まぁ、俺はこう見えてもさ……」

 調子の良いことを言っているようだが、残念ながら本気を出したところで、秋人に事件の解決は難しいだろう。なぜなら、彼自身が気づいていないからだ。千早達がここを訪れてから、つい今しがたのまでの会話の中で、彼は重要な証言をしているのだから。それに気づけないようでは、まず事件を解決には導けない。

 千早の中で答えが出つつあった。決め手となるのは愛が持ち込んだ血まみれのカッターナイフ。そのいわくの価値が、大体であるが見え始めていた。

「ありがとうございました」

 自分語りのようなものを続ける秋人の言葉を遮る千早。それと同時にチャイムが鳴った。

「まずい――下校時刻前の予鈴。まだ堺先生から話を聞いてない」

「急ぎましょう」

 千早と愛は頷き合うと、実に残念そうな表情で「え? もう行っちゃうの?」と漏らす秋人を尻目に詰所を後にする。

「それでは失礼しました」

 一応、そのまま詰所を出るのも申しわけないような気がした千早は、秋人に向かって大きく頭を下げてから、愛と共に詰所を後にした。
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