71 / 226
査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】
40
しおりを挟む
「いやいや、俺達の中でも大ベテランの人だから、笑っちゃ悪いって思ってるんだけど、やっぱり鯖虎はないわぁ!」
我慢できなくなったのであろう。秋人はそこで吹き出すと、それでも懸命に笑いを堪えようとするものだから、実に気味の悪い笑い方になる。愛と顔を見合わせて溜め息を漏らす千早。あまり時間がないのだから、さっさと話を聞かせて欲しい。秋人が落ち着いたタイミングを狙って、千早は話を切り出した。
「それで、本題なのですが――。カラスの死体を見つけた時の話をして欲しいんです」
今は笑っている場合ではないことに気づいただろう。千早に言われてバツの悪そうな顔をした秋人は、大きく咳払いをした。
「あれはまだ俺がこの仕事を始めてすぐのことだったと思う――」
秋人は遠い目をしながら、カラスの死体を発見した時のことを話してくれた。発見者の視点から語られる話には、あらかじめよそで聞いたものよりリアリティーがあった。
「で、それをきっかけに事件が始まったんだ。タヌキの生首が校門の前に置かれていたり、ウサギ小屋のウサギが刃物のようなもので切りつけられたりね――。いち警備員としては、早く事件が解決して欲しいんだけどね。動物が殺されても器物破損程度の罪にしか問えないらしいし、学校側も世間体の都合上、あんまり事を大きくしたくないみたいだし。雇われ者の辛いところだよね。もし俺が本気を出したら、犯人なんてすぐに捕まえることができるのに。まぁ、俺はこう見えてもさ……」
調子の良いことを言っているようだが、残念ながら本気を出したところで、秋人に事件の解決は難しいだろう。なぜなら、彼自身が気づいていないからだ。千早達がここを訪れてから、つい今しがたのまでの会話の中で、彼は重要な証言をしているのだから。それに気づけないようでは、まず事件を解決には導けない。
千早の中で答えが出つつあった。決め手となるのは愛が持ち込んだ血まみれのカッターナイフ。そのいわくの価値が、大体であるが見え始めていた。
「ありがとうございました」
自分語りのようなものを続ける秋人の言葉を遮る千早。それと同時にチャイムが鳴った。
「まずい――下校時刻前の予鈴。まだ堺先生から話を聞いてない」
「急ぎましょう」
千早と愛は頷き合うと、実に残念そうな表情で「え? もう行っちゃうの?」と漏らす秋人を尻目に詰所を後にする。
「それでは失礼しました」
一応、そのまま詰所を出るのも申しわけないような気がした千早は、秋人に向かって大きく頭を下げてから、愛と共に詰所を後にした。
我慢できなくなったのであろう。秋人はそこで吹き出すと、それでも懸命に笑いを堪えようとするものだから、実に気味の悪い笑い方になる。愛と顔を見合わせて溜め息を漏らす千早。あまり時間がないのだから、さっさと話を聞かせて欲しい。秋人が落ち着いたタイミングを狙って、千早は話を切り出した。
「それで、本題なのですが――。カラスの死体を見つけた時の話をして欲しいんです」
今は笑っている場合ではないことに気づいただろう。千早に言われてバツの悪そうな顔をした秋人は、大きく咳払いをした。
「あれはまだ俺がこの仕事を始めてすぐのことだったと思う――」
秋人は遠い目をしながら、カラスの死体を発見した時のことを話してくれた。発見者の視点から語られる話には、あらかじめよそで聞いたものよりリアリティーがあった。
「で、それをきっかけに事件が始まったんだ。タヌキの生首が校門の前に置かれていたり、ウサギ小屋のウサギが刃物のようなもので切りつけられたりね――。いち警備員としては、早く事件が解決して欲しいんだけどね。動物が殺されても器物破損程度の罪にしか問えないらしいし、学校側も世間体の都合上、あんまり事を大きくしたくないみたいだし。雇われ者の辛いところだよね。もし俺が本気を出したら、犯人なんてすぐに捕まえることができるのに。まぁ、俺はこう見えてもさ……」
調子の良いことを言っているようだが、残念ながら本気を出したところで、秋人に事件の解決は難しいだろう。なぜなら、彼自身が気づいていないからだ。千早達がここを訪れてから、つい今しがたのまでの会話の中で、彼は重要な証言をしているのだから。それに気づけないようでは、まず事件を解決には導けない。
千早の中で答えが出つつあった。決め手となるのは愛が持ち込んだ血まみれのカッターナイフ。そのいわくの価値が、大体であるが見え始めていた。
「ありがとうございました」
自分語りのようなものを続ける秋人の言葉を遮る千早。それと同時にチャイムが鳴った。
「まずい――下校時刻前の予鈴。まだ堺先生から話を聞いてない」
「急ぎましょう」
千早と愛は頷き合うと、実に残念そうな表情で「え? もう行っちゃうの?」と漏らす秋人を尻目に詰所を後にする。
「それでは失礼しました」
一応、そのまま詰所を出るのも申しわけないような気がした千早は、秋人に向かって大きく頭を下げてから、愛と共に詰所を後にした。
1
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~
七瀬京
ミステリー
秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。
依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。
依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。
橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。
そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。
秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる