猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
67 / 226
査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

36

しおりを挟む
 愛に案内されて図書室へと到着。扉を開けるなり、本の独特な香りが鼻をついた。図書室は窓ガラスが広く、開放的なデザインである。広さもそこそこあり、本棚の数も多い。そんな図書室のカウンターに人影が見えた。

「あ、相崎さん。待った?」

 カウンターにいたのは、眼鏡をかけた地味めな女子だった。愛みたいなタイプが光だとすれば、明らかに闇のポジションだ。普段、学校では闇属性でいるつもりの千早は、カウンターで本の整理をしている彼女が他人には思えなかった。

「まだ委員会の仕事が終わってないから心配しないで――。みんな、私に仕事押し付けて帰っちゃうし」

 どうやら委員会の仕事を押し付けられたようだ。それはもしかすると根底に【惨殺アイちゃん】の件が絡んでいるのかもしれない。愛の話によると、本の整理をしている彼女――相崎さんのほうが、よほど【惨殺アイちゃん】の一件で酷い目に遭っているようだし。

「手伝おうか?」

 愛はそう言って手伝いを始める。本の整理などの作業は、千早も仕事柄慣れている。愛の後についてカウンターに向かうと「ご指示をいただければ」と指示を仰ぐ千早。どこの誰かも分からないであろう千早の進言に、眼鏡の女子はやや戸惑った様子を見せる。愛が「さっさと終わらせちゃおう?」と促し、そして手分けをして本の分別作業が始まった。思いのほか仕事がはかどり、あっという間に本の分別作業は終了。

「ありがとう。あの事件のせいで、なんでもかんでも損な役回りをやらされてキツイよ。なんか学校に来なくなったら、それはそれで負けたような気がして嫌だけど」

 失礼な話になるが、外見だけを見ると弱々しそうで、眼鏡をかけたいかにもガリ勉といったタイプにしか見えない彼女。しかし、その意思は外見とは違って強く、またしっかりとしているように思える。もしかすると、彼女もまた千早と同じく、あえて闇の者となっているタイプなのかもしれない。

「もう心配しないでいいよ。前にメールで話をしていた子に来てもらったから」

 愛はそう言うと、千早の頭をポンポンと叩く。悔しきかな、圧倒的な身長差。

「あ、事件を解決してくれるっていう――どうか、よろしくお願いします」

 愛からどのような形で千早のことが伝わっているのかは分からないが、相崎さん――もとい、美穂は丁寧に頭を下げる。千早も頭を下げると「査定のためにいくつかお聞きしたいことがございますので、ご協力をお願いいたします」と切り出す。詳しいことは聞かされていないのか「査定?」と美穂が首を傾げ、そこに「話すと長くなるから気にしないで」と愛がフォローを入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

処理中です...