猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
65 / 226
査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

34

しおりを挟む
「あ、私はバスケ部のキャプテンやってる榎本真綾えのもとまあやです。で、愛美に会いに来たみたいだけど、残念ながら、あの子ここしばらく学校に来てないみたいで――」

 千早が先に名乗ったからか、律儀に名乗り返してくれる真宵。しかしながら、よほど風紀委員会にしつこくされたのか、千早に釘を刺すかのごとく続ける。

「でも、これだけは言っておきます。どうして愛美と会いたいのかは知らないけど、最近学校で騒がれている事件と愛美は関係ありませんからね。風紀委員会が勝手に騒いでくれて、こっちはいい迷惑なんです。誰よりも動物が好きなあの子が、動物を殺すなんて事件を起こすわけがありませんから」

 愛から話を聞いた限りだと、学校のいたるところで魔女狩りが行われているのかと思っていたが、どうやら全てが全てというわけではないようだ。千早は真宵の言葉に対して頷く。本人がいないのならば、これ以上突っ込んで話を聞いても仕方がない。少なくとも、この真宵という人物は愛美の味方である――それが分かっただけでも充分に収穫があったといえよう。

「そうですか。本当ならばご本人にお会いして、その辺りのことをお聞きしたかったのですが、どうやらその必要もなさそうですね。それでは、練習中に失礼いたしました」

 千早は風紀委員会ではないが、しかし愛美に話を聞きに来た立場だった。そう見えたからこそ真宵が先手を打ったのであろうが、この様子なら本人から話を聞くまでもないようだ。

「えっ、あ――はい」

 あまりにも千早があっさりと引き下がったものだから拍子抜けしてしまったのであろう。真宵は間の抜けたような返事をすると小さく頷いた。千早は改めて頭を下げ、そして体育館を後にする。

 体育館から戻り、そしてトイレに入ると「戻りました」と声をかける。するとトイレの個室が開き、愛が出てきた。

「どうだった?」

 声を絞って聞いてくる愛。人に聞かれても困るような話ではないし、そもそも放課後のトイレで、他人の話に聞き耳を立てるような物好きはいない。しかしながら、声を絞って問われると、こちらまで声を絞って小さくして返してしまうから不思議なものだ。

「残念ながら本人は学校に来ていないようですね。ただ、周囲の方のお話から大体のことは把握できましたので、改めて本人からお話を伺うようなことはしなくてもいいと思います。ゆえに、他の方からお話を伺うことを最優先にしたほうが良いかと」

 幸いないことに、まだやるべきことが多く残っている。愛美本人に話を聞くのは、現状やるべきことをやり、調べるべきことを調べて、それで手詰まりとなった時でいいだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

消えた弟

ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。 大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。 果たして消えた弟はどこへ行ったのか。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...