猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

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 体育館へと足を踏み入れると、独特の空気に飲み込まれそうになる。体育館が随分と広く感じられ、自分がよそ者――他校の生徒であることを思い知らされるようだ。体育館を使っているのはバスケットボール部だけのようで、奥のコートはまるまる空いている。

 邪魔にならないように壁際に立ち、その練習風景を眺める。まだ顧問の先生は来ていないようで、生徒達だけで練習をしているようだ。練習のさなか、千早の姿が目に入ったのか、ちらりと横目で見てくる生徒もいた。とてもではないが、練習の流れをぶった切って声をかけられるような状況にない。どうしようかと考えあぐねる千早の側に、バスケットボールが転がってきた。まるで、目に見えぬ何者かが手を差し伸べてくれたかのような展開。そのボールを追って、部員の子が千早の近くまでやってきた。

「あの、すいません!」

 体育館の喧騒に負けぬよう、ボールを拾いにやってきた部員に声をかける。ボールを拾って顔を上げた部員は、汗まみになった顔をぬぐいながら「なんですか?」と、あからさまに迷惑そうな表情をした。練習の真っ最中に声をかけてしまって申しわけないのだが、勘弁して欲しいところだ。

「あの、長谷川さんにお会いしたいのですが――」

 千早がその名前を出すと「愛美まなみ先輩に?」と表情を曇らせる部員。無言で頷くと「ちょっと待っててください。部長を呼んできまする」と、部活動の輪の中へと戻っていく。しばらくすると、部長らしき人が千早の元へとやって来た。バスケットボール部ということもあり背が高く、また髪の毛は女性にしては明らかに短いベリーショートというやつだ。その視線はえらく鋭く千早のことを睨んでいた。

「まだ何か御用でしょうか? もうあんたらに話すようなことはないんだけど」

 部長の言葉に既視感を覚える千早。もしかすると、彼女もまた警備員と同じように勘違いをしているのかもしれない。

「あ、あの――私は2年の猫屋敷千早といいます。ちなみに、何か誤解されては困りますので先に否定しておきます。私は風紀委員会ではありません」

 先手を打って弁明をしてみる。すると、部長は驚いたかのようにして目を丸くし「あ、ごめん。てっきり風紀委員会がまた話を聞きに来たのだと思って――」と、その鋭い視線を柔らかくした。どうやら、風紀委員会がしつこく関係者の元を訪れているようだ。きっと、長谷川愛美に会いに来たという時点で、勝手に風紀委員会として認定されてしまったのであろう。
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