猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

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「分かっているとは思うけどさ、私この学校じゃかなり有名人になっちゃってるんだよね。だから、その――あんまり生徒が多いところには行きたくなくて。いえ、無理すればいけないことはないんだけどさ」

 学校を騒がせている【惨殺アイちゃん】のせいで、愛は周囲から孤立するようになってしまった。それが彼女の心を少しずつ――しかし確実に痛めつけているのであろう。千早の前では気丈に振る舞ってはいるが、きっと他の生徒の目が怖くて仕方がないのだ。

「では、ちょっとだけ待っていてください。聞くべきことを聞いたら戻って参りますので」

 他校の生徒という立場としては、単独で動くというのには不安がある。しかしながら、愛のことを考えてやるのであれば、ここは無理に同行させないほうがいい。愛が抱えている不安に比べたら、千早の不安なんて可愛いものだ。

「それじゃあ――私、そこのトイレにいるから。戻ってきたら声をかけて」

 愛は安堵したかのように溜め息を漏らすと、すぐそばにあったトイレのほうへと視線を移す。もはや、この学校で彼女が安らげるプライベートなスペースはトイレしかないのかもしれない。愛が気丈に振る舞うものだから軽く見られがちだが、かなり追い詰められているようだ。

「あ、そのついでに一里之君にもこれまでの経過をメールしてあげて下さい。きっと学校の外でやきもきしているでしょうから」

 女子校だから男子は校内に入れない。しかしながら、自分は何もせずに家で待っているなんてこともできない。一里之の言い分を尊重して、万が一の時に備えて彼には学校の外で待機してもらっていた。近くにコンビニがあったから、その駐車場にて、自慢のバイクと共に待機してくれているのだと思う。

「うん、分かった。連絡しておくよ」

 愛はそう言うと、手を振ってトイレの中へと姿を消していった。その表情は当然ながら、どこか切なげだった。

 千早は渡り廊下の向こう側へと視線を戻すと、小さく頷いてから渡り廊下を渡る。その先で廊下は折れ曲がっており、思った通り体育館の入り口があった。扉は開け放たれており離れていても中が見える。ぱっと見た感じ、バスケットボール部しかいないのであろうか。重たいボールが床をバウンドする音に、その部活特有の掛け声がシンクロし、体育館の音響効果も相まって辺りに広がる。万年帰宅部の千早ではあるが、この部活動の雰囲気というものは嫌いではなかった。
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