猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】

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 カッターナイフは現場に同行した先生――堺という英語の教師がどこかへと持って行ったようだ。では、それをどうして愛はここに持ち込めたのであろうか。それに関しては話の流れの中で出てくるだろうと考え、千早はそのまま話を進める。

「えぇ、大丈夫です。それで、事件のことがおおやけにされたのが――」

「ゴールデンウイーク明けの全体集会。これまでの事件は外部の動物が持ち込まれるという形だったから、まだごまかしようがあったのかもしれないけど、さすがに中庭で飼育していたウサギが殺されてしまったら言いわけのしようがないでしょ? 事件そのものの噂は前から飛び交っていたし、ゴールデンウイーク明けから、名前に【アイ】の入っている人達が避けられたり、風紀委員会が騒いだりしたから、学校としては収拾をつけるために、事件を公のものにしたんだと思う」

 千早の聞きたいことを察しているかのように返答してくれる愛。申しわけないが、一里之にはもったいないようにさえ思える。人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりなど毛頭ないが、ショートカットでハキハキとしている様子の愛は、同性から見ても魅力的である。

「でも、学校が事件を公にしたところで、愛に対する扱いが変わったわけじゃなかった。特に5月4日に学校にいたせいで、クラスでも犯罪者みたいな扱いをされてんだよ」

 そう漏らした一里之が、静かに拳を握るのが見えた。同じ高校ではないため、一里之には学校にいる時の愛を守る手立てがない。純粋に悔しいのであろう。そんな一里之を横目に、愛は少しばかり寂しげな笑顔を見せ、そしてうつむいた。

「やっぱ人間って単純だよね――。魔女狩りだなんて声を大にしている人なんて一握り。他は巻き込まれたくない一心で傍観者にもなるし、加害者にもなる。何もしていないのに無視をされる、避けられる。私なんてまだマシなほうで、相崎さんはもっと露骨にやられてるみたい。本当は助けてあげたいけど、でも助けに入ったら今度は私が同じことをやられそうで……怖くて、悔しくて」

 ずっと気を張っていたのかもしれない。それとも、これまで我慢していたものがついに限界を迎え、一気に崩壊してしまったのか。うつむいたままの愛が鼻をすすり、しばらく店内にはすすり泣く声だけが響いた。千早はカウンターの下からティッシュボックスを取り出すと、そっと愛のかたわらへと置いた。

「心配は無用です。ようは査定の過程で私が赤祖父様の疑いを晴らせばいいだけのこと。あくまでも副産物ですから期待されても困りますが、できるだけのことはやるつもりですので」
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