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査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】
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そう言うとコーヒーカップを片手に売店へと逆戻りする愛。純平はペットボトルの中身を一気に飲み干すと、ゴミ箱にペットボトルを投げ入れて愛の後に続く。小さい頃からアクティブなのは愛のほうであり、こうしてよく連れ回されたものだ。
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
売店にお客さんの姿はなかった。入り口のところに小さなカウンターがあり、その中に白髪混じりの年配女性が座っている。どうやら地元の野菜をメインで扱っているようで、ずらりと野菜が並んでいた。一番人気の豆大福は――なるほど、今日はすでに品切れらしい。きっとこの近所に豆大福のファンがいるのだろう。そうでなければ、こんなド平日に売り切れるわけがない。
「はいはい、なんでしょう?」
年配の女性店員――おばあさんは、愛に話しかけられると屈託のない笑顔を浮かべる。
「あの、この辺りに古物商店があるって聞いたんですけど、その……私達、お店の名前とかも知らずに噂だけでここまできたんですけど、何かご存知だったりしませんか?」
愛に問われたおばあちゃんは、やや目を細めて宙を眺める。しばらくすると「そぅねぇ――」と前置きをしてから口を開いた。
「この辺りで古物商といったら猫屋敷さんくらいじゃないかしらねぇ。数年前から代替わりして、前店主のお孫さん……チーちゃんが跡を継いで商いをしていますよ」
おばあさんの言葉にちょっと引っかかりを覚えた一里之は、愛に耳打ちをする。
「なぁ、猫屋敷って苗字――そんなにメジャーなものなのか?」
「たまたま授業でそんなことをやったばかりだから知ってるけど、確か全国でも20人くらいしかいない珍しい苗字だったと思うよ」
これは偶然なのであろうか。実は一里之には猫屋敷という苗字に心当たりがあった。同じクラスにいる、ちょっと不思議な女子が、正しく猫屋敷という苗字なのだ。クラスから浮いているわけでもなく、また周囲から疎まれているわけでもないのだが、いつも独りで本を読んでいるイメージが強い。どちらかといえば、あちらのほうが周囲と関わることを拒否している――そんな雰囲気を持ったクラスメイトなのだが。
「いや、たまたま俺と同じクラスに猫屋敷って女子がいてさ……」
一里之が言うと、愛より先におばあさんのほうが口を開く。
「あら、あなた妻総の生徒さんなの? 確かチーちゃんも妻総だったはずよ」
あぁ、なんたる偶然なのだろうか。もしかすると、一里之が目指そうとしている場所――それこそ都市伝説レベルだとまで言われている古物商店だが、孫のチーちゃんとやらが跡を継いだということは、一里之の知っている猫屋敷こそが、その古物商店の店主だということになるのではないだろうか。
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
売店にお客さんの姿はなかった。入り口のところに小さなカウンターがあり、その中に白髪混じりの年配女性が座っている。どうやら地元の野菜をメインで扱っているようで、ずらりと野菜が並んでいた。一番人気の豆大福は――なるほど、今日はすでに品切れらしい。きっとこの近所に豆大福のファンがいるのだろう。そうでなければ、こんなド平日に売り切れるわけがない。
「はいはい、なんでしょう?」
年配の女性店員――おばあさんは、愛に話しかけられると屈託のない笑顔を浮かべる。
「あの、この辺りに古物商店があるって聞いたんですけど、その……私達、お店の名前とかも知らずに噂だけでここまできたんですけど、何かご存知だったりしませんか?」
愛に問われたおばあちゃんは、やや目を細めて宙を眺める。しばらくすると「そぅねぇ――」と前置きをしてから口を開いた。
「この辺りで古物商といったら猫屋敷さんくらいじゃないかしらねぇ。数年前から代替わりして、前店主のお孫さん……チーちゃんが跡を継いで商いをしていますよ」
おばあさんの言葉にちょっと引っかかりを覚えた一里之は、愛に耳打ちをする。
「なぁ、猫屋敷って苗字――そんなにメジャーなものなのか?」
「たまたま授業でそんなことをやったばかりだから知ってるけど、確か全国でも20人くらいしかいない珍しい苗字だったと思うよ」
これは偶然なのであろうか。実は一里之には猫屋敷という苗字に心当たりがあった。同じクラスにいる、ちょっと不思議な女子が、正しく猫屋敷という苗字なのだ。クラスから浮いているわけでもなく、また周囲から疎まれているわけでもないのだが、いつも独りで本を読んでいるイメージが強い。どちらかといえば、あちらのほうが周囲と関わることを拒否している――そんな雰囲気を持ったクラスメイトなのだが。
「いや、たまたま俺と同じクラスに猫屋敷って女子がいてさ……」
一里之が言うと、愛より先におばあさんのほうが口を開く。
「あら、あなた妻総の生徒さんなの? 確かチーちゃんも妻総だったはずよ」
あぁ、なんたる偶然なのだろうか。もしかすると、一里之が目指そうとしている場所――それこそ都市伝説レベルだとまで言われている古物商店だが、孫のチーちゃんとやらが跡を継いだということは、一里之の知っている猫屋敷こそが、その古物商店の店主だということになるのではないだろうか。
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