猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定2 惨殺アイちゃん参上【プロローグ】

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 このような夕方から夜にかけて訪れる時間を、人は逢魔時おうまがときというのだろうか。懐中電灯の明かりが心強く、しかし心許ない。校舎の周りを巡回すれば詰所に戻ることができる――それだけが河合の心の拠り所だった。

 しかしながら、ひっそりとしていて、閉塞感のある校舎の中に比べたら、外は幾分か開放感があるし、何よりも人の気配が強く感じられる。遠目に見える住宅街には明かりがともっているし、学校から少し路地を進んだ先で合流する国道のほうからは、車が往来する音がきこえる。ふっと匂ったのはシチューの匂いか。どうやら今日はどこかの家庭でシチューが振舞われるらしい。

 季節もようやく春らしくなり、夜でも過ごしやすくなった。桜も散り、地面は桜の花びらで覆われているが、このような夜の散歩も悪くない。校舎の中に比べて、いつの間にか緊張感が緩んでしまったのは、きっと周囲に人々の生活の気配が見えたからだろう。独りぼっちで校舎の中を回るより、誰かの気配がする外を巡回するほうが、遥かに気が楽になるのは当然のことである。

 ――ただ、得てしてこのような時こそ、逢魔時に潜んでいた魔が姿を現すものである。

 校舎の周りを一周し、後は正面玄関の施錠を改めて外から確認すれば定期巡回は終了。シチューの良い匂いのせいで、お腹も空いてきた。

 正面玄関は異常なし。いくつもあるガラス扉の施錠を確かめて回り、念のために辺りを懐中電灯で照らす。正面玄関脇にある倉庫――用務員などが外仕事をする際に使う道具を収納してある木造の小屋の壁を照らした時、奇妙なものが目に入った。

 今、何かおかしなものが見えた。寝耳に水というか、完全に気を緩ませてしまっていた河合にとって、それは気づいてしまってはいけないものだったのかもしれない。警備員としては間違っていないのかもしれないが、油断していた彼はそれに気づいてしまったことを後悔した。

 このまま何も見なかったことにして詰所に戻ることはできる。だが、どうしても気になった。それは警備員としての責務というより、単純に好奇心だったのかもしれない。怖いもの見たさというやつなのだろう。見なければいいのに、見ないなら見ないで気なる――自称ビビりである河合は、はたから見ても典型的なそれだった。

 これまでなぞってきた軌跡きせきをたどり、懐中電灯の明かりを動かしていく。光の輪に真っ黒なそれが照らし出された時、河合は思わず息を飲んで、そのまま止めてしまった。
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