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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【エピローグ】

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 ――世界のニャンコ大全集。パラパラとめくってみると、なるほど猫の写真集のようだ。文庫本サイズだったから、まさかそんな内容の本だとは思いも寄らなかったが、名前が名前なだけに猫好きなのかもしれない。

「猫屋敷なだけに――ですか」

 本をそっとカウンターに戻すと、何事もなかったかのように店内を見て回る班目。陳列された商品は、どれを見てもガラクタのようにしか見えないのであるが、これら全てがいわくつきのものなのだろうか。この商品の数だけ、何かしらの良からぬことがあったと思うと、なんだか背筋がゾッとする。

 店内を見て回ることしばらく。使い込まれた様子の保温ポットと茶道具をのせた盆を持って千早が戻ってきた。班目がカウンターのほうへと戻ると「何かお気に入りのものはございましたか? 売りませんけど」と、手際よくお茶を淹れながら問うてくる千早。

「あー、そうですねぇ。そこの古びたぬいぐるみなんて悪くないです」

 別に気になるものなどなかったのであるが、社交辞令でそう答える班目。たまたま目に入ったうさぎのぬいぐるみのことを口にした。

「それ、持ち主の女の子が立て続けに何人も亡くなったぬいぐるみなんです。14代目――私のおばあちゃんが店主の時に買い取ったそうです。売ってしまうとまた犠牲者が出てしまうので、残念ですけど売り物じゃないんです」

 世間話のひとつとして本人は話しているのだろうが、そのあまりにも物騒ないわくに息が一瞬だけ止まる班目。

「そ、そうですか……。そういうことなら仕方ありませんねぇ。え、遠慮しておきます」

 2人分のお茶を用意した千早は、そっと茶碗を班目のほうへと差し出し「粗茶ですが――」と一言。班目は礼を言うと、買ってきたシュークリームの箱を開けた。その瞬間、千早の目が輝いたように見えたのは気のせいだったのか。

「私はひとつで結構。残りはあなたとご家族の方で食べてください」

 シュークリームのひとつやふたつでは格好がつかないから、一応半ダース分のシュークリームを買ってきたのだった。彼女の家族構成は知らないが、ここで一人暮らしということは考えられないだろう。これまでビジネスライクな付き合いだけだったから、初めて彼女のことについて踏み込んだ瞬間だったのかもしれない。

「家族は――私とおばあちゃんしかいません。きっと食べきれませんし、せっかくのご厚意を無駄にしたくありませんので、班目様が半分くらい召し上がったらいかがでしょうか?」

 千早の言葉に胃液が込み上げてきた。実は何度か手土産を持って訪ねたが営業しておらず、その度に半ダース分のシュークリームを食べる羽目になっていた――なんて彼女の前では言えない。
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