猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【解答編】

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 班目の質問は想定内だったのであろう。あらかじめ答えを用意していたかのごとく、やや早口になる千早。表情は変わらないが、少しばかり興奮しているように見えた。自然と上半身がカウンターから前のめりになっているのも良い証拠だろう。

「そこで振り返るべきは、ひとつめのポイントです。日記が始まったのは最愛の娘が16歳の誕生日を迎えた時です。つまり、家族記念日は最愛の娘の誕生日ということになります。ここで改めて考えてみます。どうして被害者は最愛の娘が16歳の誕生日を迎えた際に、キリが良いと記述したのでしょうか?」

 店の前を一台の車が通り過ぎる音が聞こえる。春先の夜冷えは真冬の真夜中のような寂しさを伴っているように思える。彼女のプライベートは良く知らないが、この店舗兼住宅らしき場所で一人暮らしなのだろうか。少なくとも家族の存在を見たことはない。改めて彼女という存在自体がミステリアスであることを認識しつつ、班目は口を開く。

「――さて、どうしてなんでしょうねぇ?」

 事件を持ち込んでおきながら、もっとも美味しいところを持っていくほど班目も馬鹿ではない。ここはあくまでもワトスン役に徹して、是非とも査定を終えた彼女にお任せしたいところだ。

「誕生日は毎年必ずやってきます。しかしながら、世の中には毎年同じ日に誕生日を祝えない方がごく少数ながらいます。こう言えばお分かりですか?」

 こちらはワトスン役に徹し、彼女に華を持たせようとしているのであるが、空気を読んでくれず班目に答えさせようとする千早。班目は少しばかり間を置いてから、さも今になって答えにたどり着いたかのような振りをした。

「――そうか、最愛の娘の誕生日であり、また家族記念日でもあったのは、4年に一度しかない2月29日だったってことですか」

 家族記念日は2月の29日。4年に一度しか訪れない特殊な1日だったのだ。

「はい。最愛の娘にとって16歳の誕生日は、4度目の2月29日だったんです。それ以外の年は、誕生日をするにしても2月28日か3月1日に行っていたのでしょう。純粋に2月29日に誕生日を祝える年だったからこそ、被害者はキリが良いと表現したんです。そして、被害者は正真正銘の2月29日に行った家族記念日のみをカウントして、日記に残していたんです。そう考えればキンモクセイのことも解決です」
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