19 / 226
査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【解答編】
5
しおりを挟む
班目が注目したのは【家族記念日 第3回】の記述だ。この時点でキンモクセイの花は、その前年の秋には花を開花させている。とどのつまり、日記帳の中では、植えた翌年の秋には花が咲いていたことになるのだ。ともすれば、千早のしたキンモクセイの説明に間違いがあるとしか思えない。挿し木とやらで育てたキンモクセイが、最低でも5年も花を咲かせないという情報が間違っていることになるだろう。
「そうですね。私もこの日記を手に取った時は勘違いしていました。しかしながら、私の言っていることに間違いはないのです。もし、そう聞こえるのであれば、勘違いしているのは班目様のほう――ということになるかと。いえ、この日記を手に取った誰もが、ごくごく当たり前のように勘違いしてしまったせいで、日記帳の中身がちぐはぐになってしまったのだと思います」
勘違い。一体なにを勘違いしているのだというのだろうか。日記に書いてあることがちぐはぐになっていることは分かっているが、勘違いによってそれが引き起こされているとはどういうことなのか。
「その――なにを勘違いしているんですかね?」
皆目見当もつかない班目は、早々に千早へと白旗をあげることにした。勘違いだと指摘されて気づけない部分なのだ。きっと自分であれこれ考えたって、凝り固まった頭では勘違いに気づけないだろう。こういう潔さも刑事には必要だ――と自分を正当化する。
「日記が書かれていた頻度ですよ。もっとも、こんな書きかたをされては勘違いしても仕方がないと思います。まず、この日記を読んだ誰もが、日記は毎年書かれているものである――と、勝手に思い込んだはずですから」
班目はその言葉に警察手帳を凝視する。家族日記を書き写したそれは、毎年書かれているものだと思い込んでいた。
「えっ? 毎年書かれているものじゃなかったんですか?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに力強く頷いた千早は、しかし表情をひとつも変えずに言い放った。
「はい。そもそも、この日記のどこにもそんな記述はありません。日記が第1回から第8回まで順番に書かれているせいで、勝手に毎年書かれているものであると思い込んでしまっただけなんです」
日記は毎年書かれていたわけではない。となると、全8回に渡って書かれている日記は、8年分というわけではないことになる。家族記念日自体は毎年行われていたようだが――。
「ならば、この日記は何年毎に書かれていたんでしょうか?」
「そうですね。私もこの日記を手に取った時は勘違いしていました。しかしながら、私の言っていることに間違いはないのです。もし、そう聞こえるのであれば、勘違いしているのは班目様のほう――ということになるかと。いえ、この日記を手に取った誰もが、ごくごく当たり前のように勘違いしてしまったせいで、日記帳の中身がちぐはぐになってしまったのだと思います」
勘違い。一体なにを勘違いしているのだというのだろうか。日記に書いてあることがちぐはぐになっていることは分かっているが、勘違いによってそれが引き起こされているとはどういうことなのか。
「その――なにを勘違いしているんですかね?」
皆目見当もつかない班目は、早々に千早へと白旗をあげることにした。勘違いだと指摘されて気づけない部分なのだ。きっと自分であれこれ考えたって、凝り固まった頭では勘違いに気づけないだろう。こういう潔さも刑事には必要だ――と自分を正当化する。
「日記が書かれていた頻度ですよ。もっとも、こんな書きかたをされては勘違いしても仕方がないと思います。まず、この日記を読んだ誰もが、日記は毎年書かれているものである――と、勝手に思い込んだはずですから」
班目はその言葉に警察手帳を凝視する。家族日記を書き写したそれは、毎年書かれているものだと思い込んでいた。
「えっ? 毎年書かれているものじゃなかったんですか?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに力強く頷いた千早は、しかし表情をひとつも変えずに言い放った。
「はい。そもそも、この日記のどこにもそんな記述はありません。日記が第1回から第8回まで順番に書かれているせいで、勝手に毎年書かれているものであると思い込んでしまっただけなんです」
日記は毎年書かれていたわけではない。となると、全8回に渡って書かれている日記は、8年分というわけではないことになる。家族記念日自体は毎年行われていたようだが――。
「ならば、この日記は何年毎に書かれていたんでしょうか?」
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
失くした記憶
うた
ミステリー
ある事故がきっかけで記憶を失くしたトウゴ。記憶を取り戻そうと頑張ってはいるがかれこれ10年経った。
そんなある日1人の幼なじみと再会し、次第に記憶を取り戻していく。
思い出した記憶に隠された秘密を暴いていく。
戦憶の中の殺意
ブラックウォーター
ミステリー
かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した
そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。
倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。
二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。
その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。
隅の麗人 Case.1 怠惰な死体
久浄 要
ミステリー
東京は丸の内。
オフィスビルの地階にひっそりと佇む、暖色系の仄かな灯りが点る静かなショットバー『Huster』(ハスター)。
事件記者の東城達也と刑事の西園寺和也は、そこで車椅子を傍らに、いつも同じ席にいる美しくも怪しげな女に出会う。
東京駅の丸の内南口のコインロッカーに遺棄された黒いキャリーバッグ。そこに入っていたのは世にも奇妙な謎の死体。
死体に呼応するかのように東京、神奈川、埼玉、千葉の民家からは男女二人の異様なバラバラ死体が次々と発見されていく。
2014年1月。
とある新興宗教団体にまつわる、一都三県に跨がった恐るべき事件の顛末を描く『怠惰な死体』。
難解にしてマニアック。名状しがたい悪夢のような複雑怪奇な事件の謎に、個性豊かな三人の男女が挑む『隅の麗人』シリーズ第1段!
カバーイラスト 歩いちご
※『隅の麗人』をエピソード毎に分割した作品です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる