猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【解答編】

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「では、みっつめのポイント。この日記はいつからいつにかけて書かれたものなのか。もっと具体的に言うのであれば、被害者が何歳から何歳になるまでにかけて書かれたものなのか」

 国道からは外れているため車通りもなく、また山間部ということで周囲は山に囲まれている。ここから少しばかり下のほうを流れる川のせせらぎが聞こえ、春の風物詩とも言えるウグイスの鳴き声が聞こえてくる。昼夜問わずにウグイスが鳴くと知ったのは、この店のことを知ってからだ。

「それに関してはある程度推測できますねぇ。ほら【家族記念日 第7回】で被害者が赤いチャンチャンコをプレゼントされているでしょう? となると、その年が60歳になった年だったと考えることができます。この家族日記が全8回で、第7回が60歳だと考えると、最初の家族記念日が54歳で、第8回が61歳ということになりますねぇ」

 単純な計算ながら、念のためにスマートフォンの電卓機能を使って数字を出す班目。

「それを前提として、被害者が54歳の時、それぞれの娘は何歳だったでしょう?」

 たまたま班目がスマートフォンで計算したからなのか、続いて算数の問題を出してくる千早。彼女のことだから何かしらの意図があるのだろう。

「えっと、現在の被害者の年齢が64歳――。長女が44歳だから、その年齢差は20歳。次女が32歳だから、その年齢差は32歳。三女は22歳なんだから、年齢差は42歳か……」

 班目は警察手帳の情報とスマートフォンの間に視線を往復させながら答えを出す。家族記念日の日記が書かれたのが、被害者54歳の時だとすれば、それぞれの娘の年齢は――。

「長女が34歳、次女が22歳。三女は――12歳ってことになりますねぇ」

 班目の答えを聞くと、表情はひとつも変えずに首をゆっくりと傾げる千早。

「となると、やっぱり家族記念日が始まった年に16歳になる娘さんなんていなかったことになります。困りました」

 もっと表情が豊かであれば、その仕草ひとつでも可愛らしいのであろう。無表情であるがゆえに、可愛らしさのかけらもないのであるが。

「それに、よっつめのポイントとも矛盾が生じます。班目さんの推測だと【家族記念日 第8回】は、被害者が61歳の時に書かれたものになります。そして、この第8回の日記の中で、被害者は社長から退く旨を書いています。しかし――64歳になった今でも社長の席を譲ってはいませんよね?」
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