猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【問題編】

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 班目はそう言うと胸ポケットへと手を突っ込み、小型のレコーダーを取り出した。このレコーダーの中に被害者とオペレーターのやり取りが録音されている。

「実際に通報があった際のオペレーターと被害者のやり取りを録音したものです」

 持ち込んだ日記帳だけではなく、レコーダーにも興味を示したのであろう。両方に視線を往復させつつ、最終的には日記帳のほうへと意識を戻す千早。内容を吟味ぎんみするように日記帳へと視線をやりつつ「再生していただいても?」と漏らす。もはや、どのようにして班目が録音データを持ち出したのかなどは興味ないのであろう。彼女の興味の中心にあるのは、殺害された被害者が遺した日記帳と、それにまつわるいわくの価値なのであろう。

「もちろんです。査定のためならば協力を惜しむつもりはありませんから」

 班目はレコーダーに録音しておいた音声を再生する。ただでさえひっそりと静まり返っていた店内は、まだ冷たい春先の空気が漂っており、それに振動するかのごとくレコーダーの音声がやけに響いた。

「はい110番です。事件ですか? 事故ですか?」

 ややノイズの混じった入電音の後に、オペレーターの男性の声が入る。その問いかけに声をかぶせるようにして、切羽詰まった男の声が響いた。混乱しているせいか怒鳴っているかのような音量だ。

『どうして? あれだけ愛していたのに――どうして最愛の娘に殺されなければならない! あぁ、これは悪い夢だ。あの子が私を殺そうとするはずがない!』

 支離滅裂――とまでいかないが、声の調子から随分と混乱していたことが分かる。書斎に逃げ込んだ際にかけた電話だから、冷静でいろというほうが無理なのかもしれない。なんせ、書斎の扉の向こうには、ナイフを持った犯人がいたのだろうから。

「落ち着いてください。今、管轄の警官がそちらに向かってい――」

『あぁ! どうして? 娘に殺されるっ! 手塩にかけて育てたのに。どうして――どうしてっ!』

 オペレーターの声はまるで届いていないといった感じで、わめき散らすかのごとく叫ぶ被害者。ノイズが一層強くなるように感じるのは、班目の気のせいか。

「ま、まずは落ち着きましょう」

 本来ならば取り乱してはならないはずのオペレーターも、被害者の混乱が伝染でんせんしてしまったのか、冷静さを欠いた対応をする。それほど、被害者は取り乱していたのだ。様々な負の感情だけを寄せ集め、それを電話口に向かって一気に放出しているようなイメージだ。

『――どうして? どうしてなんだ?』
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