猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
7 / 226
査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【問題編】

3

しおりを挟む
「3人の娘はそれぞれ母親が違う異母姉妹――ということでしょうか?」

 田舎の峠を越えた先にある山間部の集落は、夜になると文字通りひっそりと静まり返る。車が店の前を通り過ぎる音など珍しいくらいだ。せめて有線放送でも入れればいいのに、基本的にこの店は無音であり、そのせいか自分の声がやけに響くような気がした。

「ご名答。被害者には三度の結婚歴があり、また三度の離婚歴があります。単純に3人の女性と結婚したわけですねぇ。そして、結婚の理由は全てがデキ婚――ということは、少なくともそれぞれの妻に1人ずつ子どもを授かっていたことになります。それが、被害者の3人の娘。それでまぁ、話が本題のほうに向かってくれたからそのまま切り出すのですがね――事件の容疑者もまた、この3人の娘に絞られてるんですよ」

 班目の言葉に動きを一瞬だけ止める千早。一旦、日記帳を証拠品袋の中に戻して傍に置くと口を開いた。

「査定に必要な情報になるかもしれませんから、その3人の娘さんのことを教えていただけませんか?」

 班目が【猫屋敷古物商店】に持ち込んだ殺人事件――もとい、殺人事件の被害者が遺した日記帳。不動産業で財を築いた王を討ったのは、警察の見解では3人の娘のうちのいずれかである。ただ、そこで捜査は暗礁あんしょうに乗り上げつつあった。

「――手短に説明します。本人達の顔写真などはありませんのでご了承を」

 そう断りを入れると「本人達の顔写真ですか。現時点では査定に影響はないかと」と、カウンターの中からノートを引っ張り出す千早。班目は知っている。そのノートの中には、これまで班目の持ち込んだ事件の情報が、あくまでも査定のために残されていることを。さしずめ、彼女の仕事台帳といったところか。万年筆を手にとって、メモを取る準備は万端のようだ。

「では、まずは長女――最初の妻との間に生まれた娘から。名前は外丸柊子とまるとうこ、年齢は44歳。両親が離婚した際の親権は、妻ではなく被害者のほうにあったようです。短期大学に入学する際に実家を離れていますね。短大卒業後は地元に戻りますけど、実家には入らずに近くのマンションで一人暮らし。独身でどこにでもいるような商社のOLってやつですねぇ」

 両親が離婚したとしても、子の姓は特別な届け出をしない限り、父親側の姓を名乗ることになる。それに、親権は被害者である外丸氏なのだから、長女である柊子の姓は外丸で当然だ。警察手帳をめくりつつ続ける班目。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

処理中です...