猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【プロローグ】

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 店主は日記帳を手に取ると、少し離して眺めてみたり、下から覗き込んでみたりと、文字通り様々な角度でそれを眺める。

「少し査定にお時間をいただくことになります。それに、査定のためにご協力をお願いすることもあるでしょう。こちらの台帳にご記入をお願いします」

 店主はそう言うと、カウンターの中から台帳を引っ張り出し、それと万年筆を班目の目の前へと置いた。随分と古いやり方であるが、リサイクルショップでいうところの買い取り申込書のようなものなのであろう。何度も書くようなものではないと思うのだが、仕方なく記入する班目。顧客台帳もあるはずだから、それで管理できないものか。

「では、これでいいですかね?」

 班目は記入を終えると、万年筆と台帳を店主のほうへと返した。その台帳に目を通すと、店主は証拠品の日記帳と見比べる。

「殺された被害者が遺した日記ですか。しかも事件は未解決。これはとんだいわくつきですね――。早速、査定させていただきます」

 この店は、いわくつきの品物しか買い取らない。なぜそうなのかは知らないし、その基準は店主の中で色々とあるようなのだが、この【猫屋敷古物商店】に普通の品物を持ち込んだところで門前払いされるのが関の山である。

「えぇ、是非ともお願いします」

 古物商で中古品を買い取る際、大抵は品物の状態を確かめるための査定を行う。この【猫屋敷古物商店】でも、買い取りの際に店主が査定を行うわけだが、その査定のやり方が明らかに他のリサイクルショップとは違う。

「ご希望のお値段をつけることはできないかもしれません。その時は買い取りのキャンセルも受け付けますが、 場合によっては査定手数料をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください」

 この店はいわくつきの品物を買い取る。むしろ、いわくの背景を紐解き、そこに価値を見出してから買い取るのだ。班目の持ち込んだ日記帳は、未解決である殺人事件の被害者が遺したいわくつきのものだ。査定のためにいわくの背景を紐解くということは――もはや、班目が日記帳を持ち込んだ理由は明確だった。

「えぇ、それで構いませんよ」

 班目がそう返すと、彼女は「では、失礼します」と、白い手袋をはめる。続いて証拠品袋から日記帳を取り出しつつ続けた。

「――このいわく、しかと値踏みさせていただきます」

 店主は顔を上げると、その澄んだ瞳を班目に向けたのであった。彼女の名は猫屋敷千早ねこやしきちはや。この【猫屋敷古物商店】の15代目店主――らしい。
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