猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【プロローグ】

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 春先とはいえまだ日は短く、辺りは薄暗くなりつつあった。班目の歩く先には、街灯にぼんやりと浮かび上がる古びた木造の建物がひとつ。随分と年季の入った建物の二階部分には【猫屋敷古物商店ねこやしきこぶつしょうてん】との看板が掲げられていた。

 店の入り口はガラスの入った引き戸であり、その引き戸にも【猫屋敷古物商店】の文字が入っている。中を覗くが相変わらず辛気臭いというか、電気の明るさが足りないせいか、妙に薄暗い。家の古さも相まってか、やや不気味にさえ思える。

 引き戸に手をかけると、遠慮がちに引き戸を開ける。カラカラカラと音を立てて引き戸が開くと、独特の匂いが鼻をつく。確かここの店主が好んで焚いているお香の匂いだったと思う。

 店内には陳列棚ちんれつだなが所狭しと並んでおり、実に様々なものが置かれている。例えば、小さな子どもが好きそうな玩具だとか、柄に綺麗なデザインが施されたナイフだとか、はたまた随分と古びた本や、小さな仏像まである。また、それらしく骨董の壺なんかもあるが、そのどれにも値札はつけられていなかった。もっとも、班目の目から見ればガラクタの山であり、金を出して買おうとは思わぬものばかりなのだが。

「ごめんください」

 引き戸を閉めると店の奥に声をかける。すると店の奥から「どうぞ――。いらっしゃいませ」と、透き通った女性の声が聞こえた。

「それじゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらいますよ」

 班目はオールバックに決めた髪の毛を触ると、店の奥へと進む。店の奥には古びたカウンターがあり、そのカウンターの中に店主の姿があった。いつもと変わらぬ様子で本を読む姿は、接客する気があるとは思えない。

「聞き覚えのある声だとは思いましたが、やっぱり班目様でしたか。今日もまた何かをお持ちいただいたのでしょうか?」

 ぱたんと本を閉じると、カウンター越しに班目のほうへと体を向ける店主。すらりと伸びた黒髪は後ろでひとつにまとめてある。ポニーテールなんて呼ばれる結びかただったと思う。整った顔立ちの中でも透き通るように澄んだ瞳には、なんだか吸い込まれそうな魅力がある。今日も学校から帰ってそのまま店を開いたのであろう。黒のセーラー服姿のままだ。また、春先で寒いのか薄手の白いマフラーを首に巻いていた。いや、よくよく考えるとオールシーズン、白いマフラーを巻いているような気もする。

「わざわざ聞かずとも分かってるでしょう? 私がここに来るってことは――そう言うことですから」

 班目はカウンターに歩み寄ると、証拠品袋に入ったままの日記帳を差し出した。

「こいつを買い取ってもらいたいんです。じっくりと査定した上でね」
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