3 / 226
査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【プロローグ】
3
しおりを挟む
春先とはいえまだ日は短く、辺りは薄暗くなりつつあった。班目の歩く先には、街灯にぼんやりと浮かび上がる古びた木造の建物がひとつ。随分と年季の入った建物の二階部分には【猫屋敷古物商店】との看板が掲げられていた。
店の入り口はガラスの入った引き戸であり、その引き戸にも【猫屋敷古物商店】の文字が入っている。中を覗くが相変わらず辛気臭いというか、電気の明るさが足りないせいか、妙に薄暗い。家の古さも相まってか、やや不気味にさえ思える。
引き戸に手をかけると、遠慮がちに引き戸を開ける。カラカラカラと音を立てて引き戸が開くと、独特の匂いが鼻をつく。確かここの店主が好んで焚いているお香の匂いだったと思う。
店内には陳列棚が所狭しと並んでおり、実に様々なものが置かれている。例えば、小さな子どもが好きそうな玩具だとか、柄に綺麗なデザインが施されたナイフだとか、はたまた随分と古びた本や、小さな仏像まである。また、それらしく骨董の壺なんかもあるが、そのどれにも値札はつけられていなかった。もっとも、班目の目から見ればガラクタの山であり、金を出して買おうとは思わぬものばかりなのだが。
「ごめんください」
引き戸を閉めると店の奥に声をかける。すると店の奥から「どうぞ――。いらっしゃいませ」と、透き通った女性の声が聞こえた。
「それじゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらいますよ」
班目はオールバックに決めた髪の毛を触ると、店の奥へと進む。店の奥には古びたカウンターがあり、そのカウンターの中に店主の姿があった。いつもと変わらぬ様子で本を読む姿は、接客する気があるとは思えない。
「聞き覚えのある声だとは思いましたが、やっぱり班目様でしたか。今日もまた何かをお持ちいただいたのでしょうか?」
ぱたんと本を閉じると、カウンター越しに班目のほうへと体を向ける店主。すらりと伸びた黒髪は後ろでひとつにまとめてある。ポニーテールなんて呼ばれる結びかただったと思う。整った顔立ちの中でも透き通るように澄んだ瞳には、なんだか吸い込まれそうな魅力がある。今日も学校から帰ってそのまま店を開いたのであろう。黒のセーラー服姿のままだ。また、春先で寒いのか薄手の白いマフラーを首に巻いていた。いや、よくよく考えるとオールシーズン、白いマフラーを巻いているような気もする。
「わざわざ聞かずとも分かってるでしょう? 私がここに来るってことは――そう言うことですから」
班目はカウンターに歩み寄ると、証拠品袋に入ったままの日記帳を差し出した。
「こいつを買い取ってもらいたいんです。じっくりと査定した上でね」
店の入り口はガラスの入った引き戸であり、その引き戸にも【猫屋敷古物商店】の文字が入っている。中を覗くが相変わらず辛気臭いというか、電気の明るさが足りないせいか、妙に薄暗い。家の古さも相まってか、やや不気味にさえ思える。
引き戸に手をかけると、遠慮がちに引き戸を開ける。カラカラカラと音を立てて引き戸が開くと、独特の匂いが鼻をつく。確かここの店主が好んで焚いているお香の匂いだったと思う。
店内には陳列棚が所狭しと並んでおり、実に様々なものが置かれている。例えば、小さな子どもが好きそうな玩具だとか、柄に綺麗なデザインが施されたナイフだとか、はたまた随分と古びた本や、小さな仏像まである。また、それらしく骨董の壺なんかもあるが、そのどれにも値札はつけられていなかった。もっとも、班目の目から見ればガラクタの山であり、金を出して買おうとは思わぬものばかりなのだが。
「ごめんください」
引き戸を閉めると店の奥に声をかける。すると店の奥から「どうぞ――。いらっしゃいませ」と、透き通った女性の声が聞こえた。
「それじゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらいますよ」
班目はオールバックに決めた髪の毛を触ると、店の奥へと進む。店の奥には古びたカウンターがあり、そのカウンターの中に店主の姿があった。いつもと変わらぬ様子で本を読む姿は、接客する気があるとは思えない。
「聞き覚えのある声だとは思いましたが、やっぱり班目様でしたか。今日もまた何かをお持ちいただいたのでしょうか?」
ぱたんと本を閉じると、カウンター越しに班目のほうへと体を向ける店主。すらりと伸びた黒髪は後ろでひとつにまとめてある。ポニーテールなんて呼ばれる結びかただったと思う。整った顔立ちの中でも透き通るように澄んだ瞳には、なんだか吸い込まれそうな魅力がある。今日も学校から帰ってそのまま店を開いたのであろう。黒のセーラー服姿のままだ。また、春先で寒いのか薄手の白いマフラーを首に巻いていた。いや、よくよく考えるとオールシーズン、白いマフラーを巻いているような気もする。
「わざわざ聞かずとも分かってるでしょう? 私がここに来るってことは――そう言うことですから」
班目はカウンターに歩み寄ると、証拠品袋に入ったままの日記帳を差し出した。
「こいつを買い取ってもらいたいんです。じっくりと査定した上でね」
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる