猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【プロローグ】

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 コーヒーを片手に喫煙スペースに向かうと、煙草をくわえて日をつける。刻一刻と夕方の様相を見せつつある景色を眺めながら、コーヒーと煙草をたしなむとは、なんとも贅沢なことだろうか。自然の中で煙草
を吸う罪悪感がまた堪らない。

 煙草を吸い終えるとコーヒーをゆっくりと飲み干し、そして煙草をもう一本。これから向かう場所は禁煙であるし、自分の車もまた禁煙車であるため、吸い溜めのようなものだ。ニコチン依存者というのは楽ではない。

 車に戻ると、常時積んでいる消臭スプレーを助手席から引っ張り出し、自分のスーツに吹き付ける。車に煙草の匂いがつくのが嫌なのだ。そんなことならば煙草をやめればいい――なんて、周囲は簡単に言ってくれるが、それができないのが愛煙家というものだ。

 気の済むまで消臭すると、ようやく車に乗り込む班目。エンジンをかけると、車の時計を確認する。午後6時少し前。運が良ければ、もうあの店が空いているはずである。もっとも、あの店は固定電話も引いていなければ、ホームページなんてものもない。営業時間そのものが店主の気まぐれであり、下手をすれば営業していないなんてこともざら。峠をひとつ越えていることもあり、営業していなかった時の絶望感というものは例えがたいものがある。

 どうか今日は営業していますように。班目は助手席においてある日記帳に一瞥いちべつをくれると車を走らせる。正式名称、証拠品袋と呼ばれるビニール袋の中に入れられた日記帳は、とある殺人事件の被害者の持ち物だった。もちろん、勝手に持ち出していいものではないし、簡単に持ち出せるものでもない。警部という立場と警察内部の人脈を駆使して秘密裏に持ち出したものである。ことがおおやけになれば懲戒処分が待っていることだろう。

 道の駅を出ると、そのまま道路を挟んで向かいにある集落へと入る。住宅の隣に当たり前のごとく田畑がある景色を尻目にゆっくりと車を走らせる。しばらくすると郵便局が見えてきて、そこを過ぎれば目的の店はすぐそこだ。駐車場がないため、目的の店を少し通り過ぎた先にある集会所に車を停めさせてもらった。都会なら怒られそうなものだが、土地が充分すぎるほどあり、また寛容な田舎であるせいか、注意をされたことはない。むしろ、たまたま集会所でやっていた寄り合いに誘われたことがあるくらいだ。

 集会所から見える目的の店には、夕方ということもあり明かりが灯っている。その光景を見て安堵の溜め息をひとつ。どうやら今日は営業してくれているようだ。署から秘密裏に持ち出した証拠品を片手に店へと足を速める。
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