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第4問 死神と駅の中で【エピローグ】

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 急に出雲が豹変したから驚いたのかもしれない。まるで黒幕であるかのような語り草だから、勘違いしたのかもしれない。しかし、物理的に考えるのであれば、出雲は黒幕ではない。なぜなら、司馬を殺害することはまず不可能だからだ。

「――小野寺、面白いものを見せてやるよ。立て」

 ブラウン管に顔を押し付けられたのち、その場にそのままへたり込むような形で笑みをこぼしていた小野寺。そんな小野寺のことを気味悪がるようなこともなく、また表情ひとつ変えることなく銃口を突きつけてくる出雲。小野寺は両手を挙げたまま立ち上がる。何の意図があって、出雲がこんなことをやっているのかは分からない。でも、彼が黒幕だなんてことはあり得ない。あり得ないのだから、今は彼に従ってやろうではないか。

「このまま食糧庫に向かう。歩け」

 後頭部に突きつけられていた銃口が、今度は背中を狙っている。振り返りはしないものの、気配でなんとなくそう感じた。出雲に言われた通り、食糧庫のほうへと向かう。扉は、わざわざ出雲が前に出て開けてくれた。拳銃を奪うチャンスだったのかもしれないが、あえて小野寺は何もしなかった。

 さすが、男が2人して漁った食糧庫である。綺麗に整頓されていたのであるが、すっかり棚の中は乱雑になっている。ざっと見渡した限り、まだ男2人がしばらく食って行くには困らないほどの量が残っていた。心配なのは煙草くらいだ。

「そこで止まれ」

 食糧庫に入って数歩だけ進んだところで止められた。この食糧庫にあるのは――まだしばらく問題なく食べていけるであろうレトルト食品の数々と、酒やら煙草の嗜好品。そして、奥にぽつりとある開かずの扉だけである。ここに来たばかりの時に調べたはずだが、確か鍵がかかっていたはずだ。もしかして、外に出られるのだろうか。そんな小野寺の期待を後押しするかのごとく、出雲は小野寺に銃口を向けたまま扉のほうへと歩み寄った。ポケットから鍵らしきものを取り出し、鍵穴に差し込む。小気味の良い音が辺りに響いた。

「この先がどうなっているかは、自分の目で確かめるといい」

 扉から離れた出雲が、拳銃で扉のほうを指す。小野寺はゆっくりと扉へと歩み寄り、そしてドアノブに手をかけた。扉が開く。小野寺はそのまま扉の外へと出ることはせず、少しだけ開いた扉から首を出した。

 ――ずらりと並んだ扉。無機質で冷たい雰囲気――真っ白な廊下。そして【スタジオ】と白い字で書かれた観音開きの扉。そこは実に見覚えのある光景だった。

「小野寺、これで分かったか? つまり、万が一にも番組を卒業する奴が出た際に待機する部屋――【10番目の扉】というのが、この食糧庫に繋がってる扉だったんだよ」
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