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第4問 死神と駅の中で【解答編】
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状況的に考えれば、駅舎前にいた2人は犯人ではない。すなわち、最初からその場にいた近藤。そして後からやってきた今井か春日のどちらかは犯人から除外される。藤木は黙って九十九の言葉に耳を傾けているようだった。九十九は続ける。
「そして、駅舎前に後になって出てきた――今井も犯人からは除外される。近藤と今井は事件が起きるまでずっと、駅舎前にいた。もちろん、被害者を突き落とせる状況じゃない」
駅舎前に後から出てきたのが今井だとは限らない。あくまでも駅舎の中にいた今井か春日のいずれかというだけで、確信できる根拠はなかった。それでもあえて今井の名前を出したのは、藤木の反応を見るためだった。そもそも、この犯人の絞り込み――必ず途中で行き詰まってしまう。いいや、それっぽく聞こえるだけで、かなり早い段階でつまづいてしまうようになっているのだ。
「――それで?」
何かしらのコメントがあるのではないかと思ったのであるが、どうやら聞き役に徹している様子の藤木。九十九の言葉のひとつひとつにリアクションをするような馬鹿ではないことだけは間違いない。ここはまだ手探り――どこまで踏み込めるかを慎重に指し図りつつ、推測を続けるしかない。焦ってしまえば考えもまとまらない。それは分かっているのだが、やはりどこかで焦ってしまうのは、それだけ今回のクイズの答えが不安定だからであろう。
「となると、被害者を突き落とせたのはホームにいた人物ということになる。そして、ホームにいた容疑者は春日と吉永だ」
行き止まりが見えている。これは、あくまでも行き止まりが見えている推測。きっと、この段階で九十九の言葉に説得力がないことに気づいている人間だっていることだろう。
「では――お答えください。春日さんと吉永さん、どちらが犯人なのでしょうか?」
藤木が九十九の息の根を止めんとばかりに答えを促してくる。このまま藤木のペースに乗せられてはいけない。九十九は大きく深呼吸をすると首を横に振った。
「断定できない。いや、そんなことを言ったら、駅舎の前にずっといるのが近藤とも限らないし、後になって駅舎の外に出てきたのが今井じゃなくて春日の可能性だってある。吉永がずっとホームで待っていたとも限らない。カメラが30秒ずつ切り替わってしまい、死角となると部分が出てくる以上、犯人が誰なのか決定づけることはできない――」
犯人を決定づけることができない。だからこそ、九十九は根拠も弱いまま、部外者の藤木が犯人なのではないかと考えた。もちろん、藤木の言い回しの変化なども考慮した上でだ。言わば、状況的な証拠はあれど、決定的な物的証拠がない――そんな状態なのである。
「そして、駅舎前に後になって出てきた――今井も犯人からは除外される。近藤と今井は事件が起きるまでずっと、駅舎前にいた。もちろん、被害者を突き落とせる状況じゃない」
駅舎前に後から出てきたのが今井だとは限らない。あくまでも駅舎の中にいた今井か春日のいずれかというだけで、確信できる根拠はなかった。それでもあえて今井の名前を出したのは、藤木の反応を見るためだった。そもそも、この犯人の絞り込み――必ず途中で行き詰まってしまう。いいや、それっぽく聞こえるだけで、かなり早い段階でつまづいてしまうようになっているのだ。
「――それで?」
何かしらのコメントがあるのではないかと思ったのであるが、どうやら聞き役に徹している様子の藤木。九十九の言葉のひとつひとつにリアクションをするような馬鹿ではないことだけは間違いない。ここはまだ手探り――どこまで踏み込めるかを慎重に指し図りつつ、推測を続けるしかない。焦ってしまえば考えもまとまらない。それは分かっているのだが、やはりどこかで焦ってしまうのは、それだけ今回のクイズの答えが不安定だからであろう。
「となると、被害者を突き落とせたのはホームにいた人物ということになる。そして、ホームにいた容疑者は春日と吉永だ」
行き止まりが見えている。これは、あくまでも行き止まりが見えている推測。きっと、この段階で九十九の言葉に説得力がないことに気づいている人間だっていることだろう。
「では――お答えください。春日さんと吉永さん、どちらが犯人なのでしょうか?」
藤木が九十九の息の根を止めんとばかりに答えを促してくる。このまま藤木のペースに乗せられてはいけない。九十九は大きく深呼吸をすると首を横に振った。
「断定できない。いや、そんなことを言ったら、駅舎の前にずっといるのが近藤とも限らないし、後になって駅舎の外に出てきたのが今井じゃなくて春日の可能性だってある。吉永がずっとホームで待っていたとも限らない。カメラが30秒ずつ切り替わってしまい、死角となると部分が出てくる以上、犯人が誰なのか決定づけることはできない――」
犯人を決定づけることができない。だからこそ、九十九は根拠も弱いまま、部外者の藤木が犯人なのではないかと考えた。もちろん、藤木の言い回しの変化なども考慮した上でだ。言わば、状況的な証拠はあれど、決定的な物的証拠がない――そんな状態なのである。
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