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第4問 死神と駅の中で【出題編】

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 駅の情報を引き出したところで、何が変わるというわけではないかもしれない。しかしながら、藤木から得られる情報であれば、とにかく何でも構わないから引き出しておきたかった。

「……残念ですけど、私だって完璧ではありませんし、全てを知っているわけでもありません。駅の情報を――と言われましてもね」

 あえて藤木があらかじめ調べていないような質問をぶつけたのだ。藤木の反応は予測済みだった。このやり取りは言わば伏線のようなもの。ここから解答する瞬間までに、藤木から決定的な情報を引き出す。いいや、引き出さねばならない。情報不足であることは藤木自身も認めているし、ここでいきなり切り上げて解答へと移ることはないだろう。

「じゃあ、質問を変える。この事件について、他にお前が知っていることがあるなら話せ。情報が不足しているのを【難問】と呼ぶのは、ちょっと違うと思うぜ」

 九十九に何かしらの意図があって、藤木との駆け引きを繰り広げていること――きっと周囲のみんなも薄々分かっているのだろう。だからこそ、誰も口を挟もうとしない。藤木自身も、こちらが何かを企んでいることくらいは承知してるだろう。

「この事件について知っていることですか――。では、4人の容疑者について少し話しましょうか」

 先に限定的な――それこそ答えられそうにない質問をしたあと、今度は比較的間口の広い質問を投げかける。こうすることで、ハードルの高さが低くなったように感じ、人はそのギャップに本来ならば口にしない情報さえ口にする。いきなり藤木に対して、なんでも構わないから事件について知っていることを話せ……と言ったところで、拒否されていた可能性は否めない。あえて、その前に無理難題を突きつけることにより、自然と次の質問の難易度が下がり、それくらいならば――と人は気を許してしまう。藤木が九十九の策略にはまった瞬間だった。

 どんな情報が飛び出してくるのか。そもそも、藤木が策略に乗ってくれるのかさえ不明であったが、とにかくうまくいったらしい。しかも、藤木が出す情報は容疑者達の情報だ。とっさの駆け引きから引っ張り出したにしては上出来であろう。

「さて、再現映像を見ていただけば分かる通り、容疑者は4人になります。近藤、春日、今井、吉永ですね。まず、最初に言っておきますが、この4人は――全員男性です」

 上出来なんてものではない。今の藤木の発言は失言に近いもの。情報が不足している現状においては値千金の価値があった。
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