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第4問 死神と駅の中で【出題編】

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「さぁ、どうなんでしょうね――。お答えするのは簡単ですが、それだと意味がないんです。まぁ、番組を重ねる内に、その意図も分かってくることでしょうから、今は触れないでおきましょうか」

 藤木は意味深なことを口にしつつ、セッティングを続ける。引き続き九十九がそのことに触れるために口を開こうとしたが、カメラと睨めっこをしながら「はい、もうこの話題については何もお答えできませーん」と藤木の言葉が返ってきた。

「――少なくとも、あのバスの事故が今回のことと無関係ってことはねぇだろう。この際、どんなことだって構わねぇ。何か気になる点や引っかかってる部分とかないか?」

 藤木の様子から察するに、食い下がったところで聞く耳を持たないであろう。ならば、こちらはこちらでやり方を切り替えるしかない。

「おっと、その話題は――」

「番組が始まる前のただの雑談だ。番組が始まったら一切口にするつもりはねぇが、今は雑談の話題として出していいだろ? それが嫌なら、さっさと番組を始めろよ」

 バス事故の件――番組内ではそれに触れないようにとのお達しが出たが、しかしそれ以外の抑制力はない。そもそも、番組が始まる前なのだから、何を喋ろうがこちらの自由である。藤木の薄っぺらいルールブックに従う必要はない。もっとも、ペナルティーをちらつかせられたら、それに従うしかないのが情けないが。

「見てもらえば分かると思いますが、番組を取り仕切っているのは私だけなんです。準備も全部1人でしなければなりませんから大変なんですよ」

「そっちの都合なんて知らねぇよ――」

 藤木の言葉に間髪いれずに返してやると、話題を元へと戻す九十九。あのバス事故がどう関連しているか分からないが、今は何でも構わないからみんなの意見を聞いておきたいところだ。しかしながら、様子からするに有力な意見はどうやら聞けそうにない。

「気になる点と言われても、過去に起きたバスの事故ってだけのことで、特に――な」

 長谷川が周囲に同意を得るかのごとく、それぞれの顔を見回す。たまたま目が合ったであろう眠夢が、苦笑いを浮かべた。

「たまたま同じバスに乗り合わせていたからといって、こんな目に遭わされるのはどうかと思います」

 それは実に真っ当な意見だった。事情は異なれど、事故を起こすことになるバスに乗り合わせただけの面々が、どうしてこんな目に遭わされるのか。その理由を聞いたところで藤木は答えてくれないのだろうが、どうせなら納得できる答えであって欲しい。
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