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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【エピローグ】

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 しばらくは寂れた風景が続いたのであるが次第に辺りが栄えてくる。父の話だと、以前はシャッター街というやつだったのであるが、町興しが成功し始めてからは、この辺りも栄え始めたとか。そもそも観光地でもなんでもない田舎町だったらしいから、その町興しは大成功だったと言えるだろう。派手なファッションビルなどはないものの、駅前には様々な店舗が軒を連ねている。アーケードということで屋根もあることだし、あとで辺りを散策してみるのもいいかもしれない。

「この辺りでいいか? まぁ、お前達の旅行だから口を出すつもりはないが、楽しんで来いよ」

 駅が見える辺りでアーケードに横付けされる。先に彼のほうが降りて、美奈の荷物を運び出し、自分の荷物も運び出す。コートを羽織ると、美奈に向かって手を差し出してきた。

「お父さん、忙しいのにありがとうね。これ、後で参考にさせてもらうから」

 そんなつもりはさらさらないのであるが、しかし父の顔を立てるためにも、旅行雑誌の入った茶封筒を片手に婚約者の手を掴む美奈。

「あぁ、俺にできることは、そんなことくらいしかないからな」

 美奈が降りると彼が後部座席から「お義父さん、ありがとうございました」と頭を下げる。それに対して父は素気のない様子で「あぁ」とだけ答えた。本当はお義父さんなんて呼ばれて嬉しいくせに。

 激しい雨が降りしきる中、父の車を見守った美奈と婚約者。少しばかり遅くはなったが、2人きりでの婚前旅行の始まりである。

「まずはバスの時間を確かめておこうか――。ホテルのチェックイン時間には余裕があるから、それからとりあえずこの辺をぶらぶらしてみようか」

 彼とはあらゆることで気が合った。まるでお互いの心が読めているかのごとく、全く同じ発想をする。自分に結婚など無理なのではないかと思っていたが、彼だったら一緒にやっていける自信があった。

 駅に向かい、バスの時間を確認する。何本かのバスがあったが、どうせホテルに向かったところでやることもないだろうし、そこから出かけるというのも――この天候だと面倒だ。結局、駅の付近を散策して、お昼でも食べてから、その先のことを決めることになった。

 この時の美奈はもちろんのこと、ここまで送ってくれた父も、そして隣を歩く彼も知る由などなかった。

 その日、全国ニュースで報じられるほどの大きなバス事故が起きることを、そう――この時はまだ誰も知らなかったのである。


【第3問 過去は明日と同じ夢を見るか ―完―】
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