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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【エピローグ】

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 昨晩から覚悟はできていたが、外は土砂降りだった。せっかくの一張羅も一瞬で台無しになってしまうことだろう。

「父さんも仕事なんだ。まだ時間もあることだし、職場の近くまでだったら乗せてってやれる余裕があるな」

 まず間違いなく、最初から父はそのつもりだったのであろう。まるで、たまたま時間があるように装ってはいるが、きっと早々と起きて支度を済ませ、美奈が出かけるタイミングを待っていたに違いない。相変わらず不器用だな――そんなことを思いつつ、美奈はくすりと笑った。

「うん、お願いしてもいいかな?」

 よそ行きの服はびしょ濡れになることだろうし、傘なんてさしても焼け石に水だ。足元はミュールであるし、しかも旅行ケースまで持ち歩かなければならない。ここは素直に父の言葉に甘えておくべきだろう。もっとも、旅行気分がほんの少しだけ薄れてしまうかもしれないが。

「よし、それじゃ車を横付けするから、ここで待ってろよ」

 そう言うと傘もささずにガレージのほうへと駆けて行く父。結婚――というフレーズを出した時は随分と狼狽ろうばいしていたし、他の家に娘が嫁ぐということ自体に諸手を挙げて賛成しているかといえば、きっとそうではないのであろう。でも、父は父なりに折り合いをつけて、美奈の結婚を受け入れてくれていると思っている。

 しばらくすると父の車が玄関脇に横付けされた。父に手伝ってもらって荷物を車に積み込み、そして助手席へと乗り込んだ。こうして、父と二人三脚で何かをやる機会も減ってしまうことだろう。そして、父の車の助手席に乗ることも――。結婚とは前向きなものであるはずなのに、なんだか少しだけ寂しい気がした。これから新たな幸せを掴む美奈でさえ寂しさを覚えるのだ。きっと、父はもっと寂しいに違いない。

「彼は駅のほうで待ってるんだろ? だったら今から迎えに行くって連絡を入れてやれ」

 車が発車する。大粒の雨がフロントガラスに当たり、ワイパーが拭ってもきりがない。贅沢を言うつもりはないが、せめて婚前旅行の間くらい、良い天気であって欲しかった。

「うん、分かった」

 もうすでに文章を打ち始めていたのであるが、父の言葉に頷いて婚約者にメールを送る。彼のことだから、もう駅で待っていることだろう。

 雨の降る街中を走り、駅へと続く大通りに出る。なんとなく会話が途切れてしまったからなのか、父は車のラジオをつけた。ラジオは日本全域に激しい雨が降ると言っていた。地元では錯覚館と呼ばれているらしいホテルに到着してから、彼とどうするかを決めることになるだろうが、予定していたものを見て回るのは、この天候だと難しいのかもしれない。
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