クイズ 誰がやったのでSHOW

鬼霧宗作

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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【エピローグ】

第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【エピローグ】1

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 その日は朝から土砂降りだった。予定より早く目が覚めた彼女は、じっくりと時間をかけて支度をした。今日は俗にいう婚前旅行というやつであり、そこまで遠くはないものの彼女が望んだ地へと婚約者と旅行に出かけることになっていた。

 本当ならば、彼が自慢の愛車で迎えにくる予定だった。しかしながら、運の悪いことに出発の前日になってから、まるで狙いすましたかのように彼の車が故障。その連絡が来たのが昨晩の深夜であり、当然ながら修理は間に合わず、また車をレンタルして――というのも手続きが間に合わなかった。よって、急遽であったが、電車とバスを乗り継いで目的地へと向かうことになった。

 彼とは最寄りの駅で待ち合わせ。あらかたの準備を終えた彼女は、旅行ケースを手に玄関へと向かった。それを待っていたかのごとく、父がリビングから出てきた。今日は休みのはずであるが、なぜだかスーツ姿。また急な仕事が入ってしまったのであろう。

 彼女は幼い頃に母親を亡くし、そのほとんどを父親と過ごしてきた。父は仕事ばかりで寂しい思いをさせられた記憶が強いものの、今ならば娘を育てるために必死だったのが分かる。特に反抗期の頃は強く当たってしまったが、親の心子知らずとはこのこと。結婚して、子どもができたら、父がどれだけ大変だったのか思い知ることになるのだろう。

美奈みな――これ、持ってけ」

 父親がそう言って差し出してきたのは、大きな茶封筒だった。開けて中を見てみると、どうやら観光雑誌のようだった。どこかの書店で買ってきてくれたのであろう。これから彼女――美奈が向かう街の情報が書かれているに違いない。しかしながら、今の時代はネットで調べることができるわけだし、正直なところ旅行ケースもぱんぱんだった。とてもではないが、父が用意してくれた無駄に分厚くて大きな雑誌は入りそうにない。むしろ、開けてしまうと閉じるのが面倒なほどの荷物だった。

「あ、ありがとう」

 とりあえず茶封筒のままそれを受け取る。さてさて、父の親切心はありがたいが、これを持って行くというわけにはいかない。悪気がないだけに、このような時の父の親切心には困ることが多かった。

「彼にもよろしくな。しっかり楽しんでこい」

 父はいまだに婚約者のことを彼と呼ぶ。名前で呼ぶのが恥ずかしいのか、それとも、まだ娘を取られたような気がして面白くないのか。美奈は「うん、分かった。じゃあ、行ってくるね」と、父に見送られて家を出た。
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