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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】
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――この部屋は、じきに二酸化炭素で満たされる。逃げたければ逃げても結構。ただし、逃げた場合は他の楽屋全てが二酸化炭素で満ちることになるだろう。罪を受け入れて潔く死ぬか。それとも、また誰かを犠牲にするか。さぁ、選択の時だ。
よく目にするゴシック体だというのに、紙切れに並んだ文字には不気味さが漂っていた。誰がこんなものを彼女の楽屋に残したのかは分からない。察するに、黒幕か藤木のいずれかであろうが、彼女はこれを目にしたからこそ、楽屋に入ろうとした九十九を拒絶し、1人で楽屋にこもったのだ。他の解答者を守るために、彼女は楽屋から逃げるわけにはいかなかった。彼女は自分を犠牲にして、九十九達のことを守ろうとしたのである。
「九十九さん――もし良かったら読み上げていただけません? どんなことがそこに書いてあるのか」
藤木はどんなことが書かれているのか知っているのだろうし、あくまでもカメラの向こう側に対する演出として、九十九に読み上げさせたかったのであろう。それが分かっているからこそ口をつぐんでいると、藤木は痺れを切らしたのか「ちょっと失礼」と、九十九から紙切れを奪った。
本文をそのままカメラに向かって読み上げると「きっと彼女の心の中に残っていた良心がそうさせたのでしょう。自らの罪と向き合い、そして自分を降板へと追い込んだ相手だというのに、他の解答者のみなさんのことを思って、自己犠牲の精神を見せたのです」と、吐き気がしそうな綺麗事を並べる藤木。さすがに頭にきた九十九は、気がつくと藤木の胸ぐらを掴んでいた。
「おい、さっきから黙って聞いてりゃ、都合のいいことばかり言いやがってよ――。伊良部や俺達はお前のオモチャじゃねぇんだよ!」
そのまま殴りつけてやろうとも思ったが、藤木が主導権を握っていることを辛うじて思い出した九十九は、小さく舌打ちをして藤木から手を離した。藤木はバランスをやや崩したが転倒にはいたらず。気味の悪い笑みを浮かべ、そして拍手を始めた。
「いいですねぇ。たかたが会って間もない赤の他人同士なのに、その方のために怒れる――非常に大切なことです。もっとも、本当に赤の他人同士なんでしょうかね? 本人達が気づいていないだけで、もしかすると今回が初対面というわけではないのかもしれません」
藤木はそう言うと、長谷川のほうへと向かい「ありがとうございました」とカメラを受け取る。長谷川は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。きっと九十九自身も同じだったのかもしれない。
よく目にするゴシック体だというのに、紙切れに並んだ文字には不気味さが漂っていた。誰がこんなものを彼女の楽屋に残したのかは分からない。察するに、黒幕か藤木のいずれかであろうが、彼女はこれを目にしたからこそ、楽屋に入ろうとした九十九を拒絶し、1人で楽屋にこもったのだ。他の解答者を守るために、彼女は楽屋から逃げるわけにはいかなかった。彼女は自分を犠牲にして、九十九達のことを守ろうとしたのである。
「九十九さん――もし良かったら読み上げていただけません? どんなことがそこに書いてあるのか」
藤木はどんなことが書かれているのか知っているのだろうし、あくまでもカメラの向こう側に対する演出として、九十九に読み上げさせたかったのであろう。それが分かっているからこそ口をつぐんでいると、藤木は痺れを切らしたのか「ちょっと失礼」と、九十九から紙切れを奪った。
本文をそのままカメラに向かって読み上げると「きっと彼女の心の中に残っていた良心がそうさせたのでしょう。自らの罪と向き合い、そして自分を降板へと追い込んだ相手だというのに、他の解答者のみなさんのことを思って、自己犠牲の精神を見せたのです」と、吐き気がしそうな綺麗事を並べる藤木。さすがに頭にきた九十九は、気がつくと藤木の胸ぐらを掴んでいた。
「おい、さっきから黙って聞いてりゃ、都合のいいことばかり言いやがってよ――。伊良部や俺達はお前のオモチャじゃねぇんだよ!」
そのまま殴りつけてやろうとも思ったが、藤木が主導権を握っていることを辛うじて思い出した九十九は、小さく舌打ちをして藤木から手を離した。藤木はバランスをやや崩したが転倒にはいたらず。気味の悪い笑みを浮かべ、そして拍手を始めた。
「いいですねぇ。たかたが会って間もない赤の他人同士なのに、その方のために怒れる――非常に大切なことです。もっとも、本当に赤の他人同士なんでしょうかね? 本人達が気づいていないだけで、もしかすると今回が初対面というわけではないのかもしれません」
藤木はそう言うと、長谷川のほうへと向かい「ありがとうございました」とカメラを受け取る。長谷川は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。きっと九十九自身も同じだったのかもしれない。
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