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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

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「行こう。これまでと同じなら、そろそろ楽屋にロックがかかるはずだ」

 スタジオに残された九十九達。長谷川の声が広いスタジオには随分と響いた。ここであと、どれくらいの収録が行われるのか。良くも悪くも環境に慣れ始めている自分がいたことに気づき、九十九は首を横に振る。

 長谷川と共に柚木を守る。名目上は間違いなくそれであるし、最終的な目的も柚木を守ることで間違いはない。しかしながら、それにくわえて長谷川の動きを封じ込めることができるのが大きい。長谷川もまた、疑わしき九十九の動向を探れるのは悪くないと思っていることだろう。

 自分が罪を犯し、そして裁かれるだけなのに、そこに護衛という新たなプロセスが生まれたことで戸惑いを隠せないでいるのかもしれない。呆然と立ち尽くす柚木の肩を、優しく長谷川が叩いた。言葉は発せずとも、ゆっくりと歩き出した柚木。

「とりあえず食糧は多めにあったほうがいいだろう。幸い、俺が馬鹿みたいに所持してるから、持って行ってやるよ」

 九十九はそう言うと、ほんの少し離れるつもりで自分の楽屋へと向かった。

「念のために俺の楽屋からテーブルとか引っ張り出して、バリケードでも作っておくか」

 九十九が離れたことにより、ほんの少しの時間だが、柚木が1人になる状況が出来上がった。だからと言って、急にヒットマンのような殺し屋が出てくるわけでもなく、柚木は何事もなく自分の楽屋の中へと入った。長谷川が同じタイミングで離れた時点で嫌な予感がした九十九であったが、それは杞憂だったようである。楽屋に戻り、適当に食糧をチョイスする。少なくとも3人で次の番組開始まで過ごさねばならないから、数食分のストックがあったほうがいいだろう。結果、腕いっぱいに抱える形になってしまった。

 楽屋を出て、柚木の楽屋へと向かう。長谷川が自分の部屋からソファーを持ち上げ――いいや、なかば引きずるような形で持ち出してきた。それをバリケードとして使うつもりらしい。まぁ、悪くはない。

 他の女性陣は、もう自分の楽屋に戻ったのであろう。静まり返った廊下には、九十九と長谷川の足音にくわえ、ソファーの足を引きずる音だけが響いた。

「おい、先にこっちのほうを手伝ってくれ。思った以上に重たくてかなわん」

 発想は悪くなかったものの、見切り発車をしてしまった様子の長谷川。引きずる音からも、見た目より重さがあるようだった。それだけの重さがあれば、バリケードとしてはかなり優秀である。
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