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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

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「お前に言われるようになったら終わりだな――」

 あえて憎たらしく、そして皮肉っぽく返してやる九十九。それはある意味で裏返し。こうして、まだお互いのことを思いやれているという証明。もし、九十九が誰も信頼できなくなっていたら、皮肉っぽく返すこともなかっただろう。

「……これでも一応、心配してやったんだけど。まぁ、うまいことやってよね。もう――仲間が減るのは嫌だから」

 アカリはそう言うと、柚木の顔はあえてみないようにしている素振り見せつつ、さっさとスタジオから外に出てしまった。ほんの一瞬であるが、彼女の頬に光るものが伝ったのが見えたような気がする。

「私も私なりに、現状をどうすべきか考えてみます。明日、お伝えしますので、どうかご無事で――」

 第3問目に入った辺りから、これまでの雰囲気から一変した眠夢。眠気と戦いつつ、解答席に座っていた頃が懐かしく思える。

「随分と雰囲気が変わったもんだなぁ。もしかすると、そっちが本性だったりするか?」

 これまで眠夢は、まるで寝起きであるかのような雰囲気を押し通してきた。その割には、肝心の部分で重要なことを口にしてみたり、頭の回転が早いように見えることもあった。別に今となっては、どちらが本性でも構わないが、あえて確かめてみる。

「普段から馬鹿を演じていたほうが色々と得をするもので。状況も状況でしたし、自らの身を守る意味も込めて、少しばかり芝居を打たせてもらいました」

 大体、普段からあれだけ眠たそうにしている時点で異常だったのだ。おそらく、それは彼女自身が自分の名前にちなんだキャラクターづけをしたゆえの不審点だったのかもしれない。なかなかの役者である。

「結構な演技力だな。まぁ、この段階で本性晒しておくのは正解かもな。後半になればなるど、お互いを疑う場面が出てくる。そこで、実は自分とは別のキャラクターを演じていたとなると、周りから信頼されなくなるからな。それじゃ明日。あんたの考えを聞かせてくれよ」

 話を適当なところで切り上げると、眠夢もまたアカリのことを追ってスタジオの外へ。最後に凛が歩み寄ってきたが、彼女の瞳には涙が溜まっていた。

「どうした? 桃山」

 問うてはみたが、しかし彼女は涙を拭うと、柚木のほうへと一瞬だけ視線をやって、そのままスタジオの外へと駆けて行った。柚木が死んでしまうかもしれないことを悲しんでいたのかもしれない。まったくもって気が早い話だが。
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