上 下
340 / 506
第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

30

しおりを挟む
「今回の事件を振り返ってみろ。首吊り死体が一度消えて、そして翌日になって【甲】の部屋に現れるというトリック――。トリックとしては悪くないが、そもそも犯人がトリックを仕掛ける目的ってどこにあると思う?」

 あくまでも周囲との調和を忘れてはならない。また、この面子の中から人が減る。人が減れば減るほど、黒幕の可能性がある人間も絞られることになる。今はこうして当たり前のように議論を交わしているが、下手をすると、それができなくなるくらいに空気は悪くなってしまうかもしれない。だからこそ、ここで食い止める。人と人との絆なんてもの、正直なところ馬鹿馬鹿しいと思うのであるが、この時ばかりは大切にしたかった。

「自分に疑いの目が向かないように――ってのが、トリックを仕掛ける理由だと思うんだけど」

 女性陣のほうから声が上がる。アカリだった。ワンクッション置いて自分に発言権を戻すためには、実に妥当な答えだと思う。本人に自覚はないのだろうが、九十九の呼吸というものが自然と分かり始めているのかもしれない。

「そうだな。まず、自分から疑いの目をそらすためにトリックが用いられると考えられるだろう。じゃあ、ここでさらに踏み込んでみるか。つまり、今回のトリックを仕掛けることによって、隣の部屋に泊まり、また犯人でもあった【丙】に疑いの目が向けられなかったと思うか?」

 これはクイズに取り組んでいる時点で九十九が抱いていたものだった。確かに、首吊り死体の消失トリック自体は面白いかもしれない。けれども、それをしたことで【丙】にメリットがあるか否かが重要なのだ。

「いや、そんなことはないだろ。別にそれをすることで、事件当時の【丙】のアリバイが確保できるわけでもないし、容疑者からも外れたりはしないからな」

 自分で言っておきながら、何かに気づいたかのように目を丸くする長谷川。分かりやすいリアクションに、思わず出そうになった笑いを噛み殺す九十九。

「その通り。随分と大袈裟に実行されたトリックだが、そもそも首吊り死体を【A】達が目撃した際、【丙】もそこに一緒にいたわけじゃない。あくまでも【丙】は自分の部屋にいて、特にアリバイ作りをしていたわけでもない。つまり、死体の消失という現象が起きようが起きまいが、隣の部屋にいただけの【丙】に疑いの目は向けられていたはずだ。要するに本末転倒なんだよ。大掛かりなトリックを仕込んだ割に、それを実行するメリットが【丙】にはない。むしろ、トリックを実行している際に誰かに姿を見られてしまうリスクはあっただろうし、トリック自体が成功する保証もないわけだ。でも、伊良部の話を聞いて納得した。【丙】はあらかじめ用意されていたプランに従って犯行を実行に移しただけだったんだ。それこそ盲目的にな」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:64

懴悔(さんげ)

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:9,508pt お気に入り:11

正当な権利ですので。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:1,097

主人公になれなかった僕は

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

ホラー / 完結 24h.ポイント:3,535pt お気に入り:516

処理中です...