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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

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 柚木は匿名の掲示板に、【甲】に対する恨みつらみを書き込んでいたらしい。それが、そこそこに面白がられて、俗にいうまとめサイトみたいなものにまで掲載されていたそうだ。メールの送り主は、そのまとめサイトを見かけてメールを送ってきたらしい。怒りに任せて、復讐のアイディアを募った時に使った、俗にいう捨てアドという名のフリーメール宛だった。

 メールの送り主は自分のことを【刑事】だと名乗ったそうだ。スマホのアドレスなどを交換すると、後々になってから厄介になる――とのアドバイスを受けた柚木は、お互いに捨てアドで連絡を取り合うことにした。

 舞台となったホテルを紹介してくれたのは【刑事】のほうだった。ここで、指示通りにやれば、警察に捕まることはないだろう――とのこと。しかしながら、指定された舞台に、【甲】と一緒に泊まり込むというシチュエーションを作り出すことは簡単なことではない。それでも、【甲】に対する恨みのほうが勝った。

 普段は大人しい部類に入る柚木であったが、学校で行われる行事の行き先として、指定されたホテルを提案した。修学旅行においては却下となったが、各学年で行われる学習旅行において、なんと柚木の提案が通った。町おこしの一環として芸術作品が設置されていたりするから、学校側からしても学習旅行に適していると判断されたのであろう。

 密に【刑事】と連絡を取り続け、何度もプランを練った。その結果――実際に柚木は【甲】を殺害したものの、警察に捕まることなく、現在にいたるとのこと。

「あんたが起こした事件には、プランナーが存在したってことか。そいつの指示通りに事件を実行したら、警察に捕まらずに済んだと……」

 柚木は小さく頷いた。柚木の話を聞いた他の面子は、ただただ驚くばかりだったようだ。しかしながら、数藤から事前の情報を貰っていた九十九の頭の中では奇妙な図式が出来上がりつつあった。

 事件を隠蔽するとしたら、どんな手段が適当であろうか。もちろん、調べるべきところをわざと調べないようにするとか、あえて手を抜いた杜撰な捜査をするということも手段としてあり得るだろう。けれども、それをより強固なものにするのならば――事件そのものをプロデュースしてしまったほうがいいのではないだろうか。

 数藤から聞いた悪徳刑事とは印象が異なるものの、もし実際に事件を隠蔽してしまうのであれば、起きてしまったものを隠蔽するのではなく、最初から隠蔽することを前提とした事件を起こしてしまったほうが手っ取り早い。

 ――確信はないが、数藤の言う悪徳刑事と、柚木のいう【刑事】は、同一人物という可能性があるのではないか。
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