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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

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「犯人は隣の自分の部屋を【甲】の部屋に見せかけて、首吊り死体消失トリックを実行したあと、実際に首吊り死体を本物の【甲】の部屋に運び込んだ。で、翌日には【甲】の部屋で死体が見つかる。これがトリックの全貌よね?」

 自身での確認作業も兼ねているのかもしれない。これまでの話を振り返るかのごとく、宙へと視線をやりながらアカリが呟いた。

「その通りだ。で、実際のところ首吊り死体は【丙】の部屋から【甲】の部屋へと移動させられているわけだ。【甲】の部屋で首吊り死体が消えて、朝になったら【甲】の部屋に首吊り死体が現れた。それはなぜなのか――俺達の議論の論点は、そこだったはずなんだ。だから、木戸はマジックショーと聞いて、その場で対象が姿を消してしまうマジックを連想した。しかし、伊良部はなぜか、対象が移動するマジックを連想した。それはどうしてか?」

 決定的な証拠にはならないだろう。そもそも、人の言質というものに証拠能力はない。法律においても、許可なしに録音された音声が証拠とはならないくらいなのだから、言った言わないの押し問答程度のものになるおそれもある。けれども、彼女は間違いなく追い詰められている。その背中をそっと押すだけならば、これで充分なのかもしれない。

「実際に知ってたからだよ。実行されたトリックに死体の移動が含まれていることをよ――。だからこそ、とっさに対象が移動するマジックを連想し、多少は議論に加わっておかねばまずいと思ってか、そこで思わず発言してしまった。ずっと黙ってたら、まだ結果は変わってきたのかもしれないな」

 九十九の言葉が合図だったかのように、スタジオに静寂が訪れた。その要因のひとつとして、バックで小さく流れていたBGMが消えたというのがあるのだろう。すなわち、そろそろ番組的にも頃合いということだ。

「さぁぁぁてぇぇ! お時間にてございますぅ! 答えを変更したい方は、今のうちにフリップを書き直してください!」

 やれるべきことはすべてやった。だから、もう無回答のままでいる必要もない。九十九はマジックペンを手に取ると、犯人の名前を書いた。他にも数名、答えを変更した者がいるようだ。ここまでの話を聞いて、柚木以外の名前をフリップに書けるやつがいるなら見てみたい。

「えーっと、九十九さん、長谷川さん、木戸さん、伊良部さんが答えを変更すると――他の方はよろしいでしょうかね?」

 一同を見回しながら藤木が問う。その問いかけには、誰も反応を見せなかった。
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