319 / 506
第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】
9
しおりを挟む
「ホテルには元々、中庭越しに見える廊下が短く見える――という仕掛けがあった。それを知っていた【A】達は、仮に本当に廊下の長さが短くなっていても、それが錯覚であると思い込み、勝手に脳内で補正してしまう。だから、ベニヤ板が立てかけられている範囲が広がっても【A】達は気づかなかった――ということですね」
眠夢の言葉に九十九は頷いた。この事件の本質的な部分は、あらかじめ錯覚を引き起こす要因が揃っているため、多少の不自然な点があっても、脳内で錯覚によるものだという補正が働いてしまう点にある。これを逆手に取ることにより、犯人は首吊り死体を消失させたのだ。
「話を元に戻そうか。犯人によって呼び出された【A】達は、一番左端に位置する【甲】の部屋の窓がベニヤ板によって塞がれていたため、そのひとつ隣の首吊り死体がぶら下がっている部屋を【甲】の部屋だと勘違いし、フロント側から現場へと向かった。犯人は【A】達がフロントへと向かったのを確認すると、【甲】の部屋の窓を塞いでいたベニヤ板を元に戻し、窓から自分の部屋へと戻った。カーテンを閉め、電気を消すと【A】達が【甲】の部屋に駆けつけた頃を見計らって、自分の部屋から顔を出したんだ」
もうここまで言ってしまえば、再現映像の中で誰が犯人なのかは一目瞭然。しかしながら、あえて九十九は答えを言わずに続ける。
「当たり前だが、【甲】の部屋では殺人事件なんて起きていないし、首吊りの死体がぶら下がっているわけでもない。最初からもぬけの空だった部屋は、【A】達が駆けつけたところで、もぬけの空のままだった――ってだけのこと。ベニヤ板を使って犯人が【A】達に部屋を誤認させたからこそ、まるで首吊り死体が短時間で消失したように見えただけなんだ」
そろそろ、再現映像における犯人が誰なのかを話しておくべきであろう。これまでの流れで犯人が誰であるかは明白ではあるが。
「まぁ、まさか【A】達も思わなかっただろうなぁ。騒ぎに顔をのぞかせた【丙】の部屋の中には、まだ首吊り死体がぶら下がっているなんてよ」
九十九がたどり着いた首吊り死体消失トリック。これを実現するためには、絶対的な条件がある。それは、被害者の隣の部屋の人間であること。ひとつ隣の自分の部屋を、隣の【甲】の部屋に見せかけるのだから当然である。そして、【甲】の隣の部屋に泊まっていたのは――【丙】だ。
「犯人は【丙】だったということか」
タイミング的な問題だったのであろうが、変に静まり返ってしまったスタジオには、長谷川の呟きが良く響いた。
眠夢の言葉に九十九は頷いた。この事件の本質的な部分は、あらかじめ錯覚を引き起こす要因が揃っているため、多少の不自然な点があっても、脳内で錯覚によるものだという補正が働いてしまう点にある。これを逆手に取ることにより、犯人は首吊り死体を消失させたのだ。
「話を元に戻そうか。犯人によって呼び出された【A】達は、一番左端に位置する【甲】の部屋の窓がベニヤ板によって塞がれていたため、そのひとつ隣の首吊り死体がぶら下がっている部屋を【甲】の部屋だと勘違いし、フロント側から現場へと向かった。犯人は【A】達がフロントへと向かったのを確認すると、【甲】の部屋の窓を塞いでいたベニヤ板を元に戻し、窓から自分の部屋へと戻った。カーテンを閉め、電気を消すと【A】達が【甲】の部屋に駆けつけた頃を見計らって、自分の部屋から顔を出したんだ」
もうここまで言ってしまえば、再現映像の中で誰が犯人なのかは一目瞭然。しかしながら、あえて九十九は答えを言わずに続ける。
「当たり前だが、【甲】の部屋では殺人事件なんて起きていないし、首吊りの死体がぶら下がっているわけでもない。最初からもぬけの空だった部屋は、【A】達が駆けつけたところで、もぬけの空のままだった――ってだけのこと。ベニヤ板を使って犯人が【A】達に部屋を誤認させたからこそ、まるで首吊り死体が短時間で消失したように見えただけなんだ」
そろそろ、再現映像における犯人が誰なのかを話しておくべきであろう。これまでの流れで犯人が誰であるかは明白ではあるが。
「まぁ、まさか【A】達も思わなかっただろうなぁ。騒ぎに顔をのぞかせた【丙】の部屋の中には、まだ首吊り死体がぶら下がっているなんてよ」
九十九がたどり着いた首吊り死体消失トリック。これを実現するためには、絶対的な条件がある。それは、被害者の隣の部屋の人間であること。ひとつ隣の自分の部屋を、隣の【甲】の部屋に見せかけるのだから当然である。そして、【甲】の隣の部屋に泊まっていたのは――【丙】だ。
「犯人は【丙】だったということか」
タイミング的な問題だったのであろうが、変に静まり返ってしまったスタジオには、長谷川の呟きが良く響いた。
1
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】リアナの婚約条件
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
山奥の広大な洋館で使用人として働くリアナは、目の前の男を訝し気に見た。
目の前の男、木龍ジョージはジーウ製薬会社専務であり、経済情報雑誌の表紙を何度も飾るほどの有名人だ。
その彼が、ただの使用人リアナに結婚を申し込んできた。
話を聞いていた他の使用人達が、甲高い叫び声を上げ、リアナの代わりに頷く者までいるが、リアナはどうやって木龍からの提案を断ろうか必死に考えていた。
リアナには、木龍とは結婚できない理由があった。
どうしても‥‥‥
登場人物紹介
・リアナ
山の上の洋館で働く使用人。22歳
・木龍ジョージ
ジーウ製薬会社専務。29歳。
・マイラー夫人
山の上の洋館の女主人。高齢。
・林原ケイゴ
木龍ジョージの秘書
・東城院カオリ
木龍ジョージの友人
・雨鳥エリナ
チョウ食品会社社長夫人。長い黒髪の派手な美人。
・雨鳥ソウマ
チョウ食品会社社長。婿養子。
・林山ガウン
不動産会社社員
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる