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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

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 九十九が書いたのは、それこそトリックアートとして有名なものだった。1本の線を引くと、両側に外側を指す矢印を付け足す。もう1本の線を引くと、両側には内側を指す形の矢印を付け足した。一方は外向きの矢印、もう一方は内向きの矢印。2本の線が並んだフリップを出す。

「さて、こいつは錯視絵としてはかなり有名なやつだな。2本の線が並んでいて、一方は矢印が外側を指すように、もう一方は矢印が内側を指すように付け足されている。すると、実際のところ2本の線の長さは同じはずなのに、矢印が外側を指している線のほうが短く、逆に矢印が内側を指している線のほうが長く見えてしまう。じゃあ、ついでに桃山に聞いてみようか。それらを踏まえて、この2本――実際にどっちのほうが短いと思う?」

 フリップを片手に凛へと問いかけてみる九十九。有名な錯視絵であるし、知らない人のほうが珍しいであろうが、あえてどちらが短いのか――凛に答えを求める。

「いや、答え今さっき言ったじゃん。それに、私もその絵くらい知ってるし。矢印の向きのせいで、線が短かったり長かったり見えるけど、実際のところ2本の線は同じ長さ――でしょ?」

 今回の彼女は九十九が思った通りの反応を見せてくれる。こちらが欲しい反応をしてくれるから、話の展開も楽でいい。九十九は自らが引っ張った2本の線へと、交互にマジックペンを当てて長さを測った。矢印が外側を指しているほうの線は、マジックペン1本半分の長さ。そして、矢印が内側を指しているほうの線は――マジックペン2本分の長さがあった。まぁ、わざと長さを変えて書いたのだから当然だ。

「ところがどっこい。実は2本の線の長さは異なるんだよ。これと同じことが【A】達にも起きたんだ。つまり、あらかじめ【錯覚のせいで向かいの廊下が短く見える】という情報を持っていた【A】達は、実際に廊下が短くなっているのにかかわらず、それは錯覚によってそう見えているものだと頭の中で勝手に補正してしまったんだよ。2本の線の長さが異なるのに、それが有名な錯視絵だという情報を持っていたがために、2本とも同じ長さだと答えた桃山みたいにな」

 ベニヤ板で窓を塞いだだけならば、ぱっと見ただけで違和感が生じただろう。しかしながら、そこは最初から錯覚が起きる場所であるとされていたことから、例え違和感を抱いても錯覚のせいにすることで解決してしまう。もしかすると【A】達だって何も知らなければ、部屋ひとつ分長さが足りなくなった廊下に違和感を抱いていたかもしれない。犯人は現場が錯覚を生み出すように作られた場所であることを逆手に取ったのだ。
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