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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【解答編】

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 ここで重要になってくるのは、ベニヤ板が部屋の数だけ用意され、両端に重ねて立てかけられていた可能性が高いという点。この事実を犯人がどのようにして知り得たのかは不明であるが、ちょっと調べれば分かるようなものであるし、事前に知る手段はいくらでもあったはず。合いの手が入るのを待っていたが、どうやら一同は九十九の言葉を待っている様子だった。そのまま続ける。

「犯人はまず、被害者である【甲】を自分の部屋に呼び出して殺害した。殺害する場所はどこでもいいが――人の目を気にする必要もなく、死体を運ぶ必要もねぇ場所が殺害場所としてはベストだろうな。被害者の死亡推定時刻は、大分幅が広く取られていたから、どのタイミングで殺害されたかまでは分からない。早い段階で殺害していたのであれば、深夜になるのを待って犯人は行動を起こしたと思われる。遅い段階ならば、そのまま準備に取りかかったことだろう。どちらにせよ、事件は犯人の部屋で起きている。死体が見つかることはまずなかっただろう」

 ふと九十九は犯人のほうへと視線をやる。この段階では、まだ犯人は特定できないと考えているのか、さほど様子が変わっている雰囲気はなし。これまで通りの平常運転。その様子がどのように変わっていくのか。それをつぶさに観察することは、その人物が犯人であるか否かの判定にも役立つ。今回は時間が短い中で弾き出した答えであるから、万全を期すために、その辺りもしっかりとしておきたい。

「ん? ちょっと待てよ――。犯人は自分の部屋で犯行に及んだんだよな? だとしたら……」

「おっと、とりあえず俺がキリのいいところまで話すからよ、今浮かんだ疑問は、とりあえず後に取っておけ」

 明らかに疑問を提示しようとした長谷川を制止する九十九。現段階でやや不自然なことを言っているのは承知の上だ。その疑問こそが、今回の謎の答えにたどり着くために必要になってくるのだが、それを解き明かすには順序というものがある。

「さて、【甲】を殺害した犯人は、時間を見計らって部屋の準備を始めた。とりあえずカーテンを閉めて、部屋の電気を消しておけば、誰かに目撃されることはないだろう。【甲】の首吊り死体を吊り下げ、あたかも首吊りをしているかのように見せかけた。そして、内線電話で【A】達の部屋へと電話をかけた。【A】達の部屋に内線電話をかけた理由はいたってシンプル。部屋を出てすぐに、中庭越しに首吊り死体のある部屋が見えるからだ。つまり、最初から犯人は、【A】達を目撃者に仕立て上げるつもりだったんだよ」
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