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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 錯覚館と呼ばれる特殊な建物。壁に立てかけられたベニヤ板、一瞬にして消えてしまった首吊り死体――実はこれ、思っているよりも簡単に実行できるのではないだろうか。

「桃山、お手柄だぜ。そうか――確か、そんな大掛かりなマジックをテレビで見たことあるわ。あれのタネを知った時、がっかりした記憶まである」

 切羽詰まった状況に、九十九の一言はかなり効果的だったであろう。いつシンキングタイムが終わるか分からず、しかも今回は九十九も真相にたどり着けていなかったから、それが焦りとなって周囲に広がってしまったことだろう。少なくとも、今回のシンキングタイムは文字通りのシンキングタイムとなってしまったがゆえに、嫌でもみんなが焦燥感を抱いたに違いない。

「え? その言い分だと――分かったの? どうやって首吊り死体が消えたのか」

 凛の言葉に「あぁ」と大きく頷いてやった。首吊り死体の消失は、確かにあの短時間にて行われたのである。しかも、あまりにも単純すぎる手段でだ。

「それってマジックが元になってるってこと? あの、アシスタントの人を消すみたいなマジック?」

 過去に見たことがあるマジック。それが首吊り死体消失のトリックに直結する。あえて、どんなトリックを使ったのか問うてこない辺り、なんだかんだでアカリもこの番組に調教されてしまったのかもしれない。

「それとも――瞬間的にマジシャン自身が移動するマジックでしょうか?」

 口数がすっかり少なくなってしまった柚木が、珍しく口を開く。事件が解決に向かって……すなわち、問題が正解に向かって前進したことで、少しは気が楽になったのかもしれない。

「まぁ、それは後で説明する。トリックが分かったからと言って犯人が分かったわけじゃねぇから――」

 そこまで言いかけると、軽く頭痛がしたような気がした。もう、答えを導き出すために必要な情報は全て揃っている――それを警鐘として鳴らすかのごとく、ほんの少しだけ、心臓の動きに合わせて、こめかみの辺りがズキズキと傷んだ。

 これまで、どこか違和感を抱いていた事柄。もしかすると、それらはある事実に全て収束するかもしれない。なぜ、登場人物の表記がアルファベットと漢字に分けられていたのか。もしかすると明確な区別をつけるために分けてあったのではないか。となると――犯人はもう、あの人物しかいない。

「危ねぇ、今回はぎりぎりだったな。でも、おかげでどうやら分かったみたいだぜ。誰が犯人なのかなぁ」

 九十九は軽く頭を振ると、不安感の漂う解答席に向かって呟いた。藤木が動きを止める。
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