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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】
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「容疑者を絞れば楽になるのは当然だが、今回に関しては、それくらいの絞り込みにしておいたほうがいいな。下手すると【A】と【C】もまだ、容疑者に残しておいたほうがいいかもしれねぇが」
アリバイ――という意味合いでは【A】と【C】は一緒にいたし、首吊り死体の消失については、どちらも関与できなかったように見える。ただ、そもそもそ首吊り死体がどのようなプロセスを経て消失したのかを先に探る必要があった。それによっては【A】と【C】も容疑者になり得るかもしれない。
「それよりも先に、首吊り死体が消えた謎について考えたほうがいいだろう。そのうえで、誰がそれを実行できたのかを考えたほうがいい」
九十九が口にしようとしていたことを、丸々代弁するかのごとく口にする長谷川。どうにも、彼の発言には必死さのようなものが滲み出ている。この場を引っ張っていかなければならないというプレッシャーでも勝手に背負っているのか。やはり、彼にとって九十九は警戒すべき相手――ということなのだろう。
「でも、本当に何がどうなって首吊り死体が消えたんだろう。【A】達が目撃してから、現場となった部屋の前にたどり着くまで、ざっと多く見積もっても1分程度。その間に、首吊り死体を下ろして、何事もなかったかのように部屋を綺麗にして、しかも部屋には鍵をかけて、犯人は現場を去る。どう考えても時間が足りないと思うんだけど」
凛の言ったことが、今回の謎の全てと言っても過言ではないだろう。消失した首吊り死体。たった1分程度の間に、どのようにして死体は消失したのか。
「物理的に考えても、おそらく首吊り死体を下ろすだけでも1分じゃ足りないと思う。でも、実際に【A】達が駆けつけるわずかな間に、首吊り死体は消失した。しかもご丁寧に部屋の電気も消して、鍵までかけて――」
アカリがぽつりと漏らした。首吊り死体の消失。この謎が解けなければ、犯人が誰なのか絞り込むこともできない。果たして、どうやって首吊り死体は消えてしまったのか。
「まるでマジックショーだね。マジシャンでもなければ、何事もなかったように首吊り死体を消失させることなんてできないよ――ねぇ、柚木ッチ」
ずっと柚木が黙ったままだったこと、彼女としてはやや心配だったのかもしれない。凛が口を開いたついでに、柚木に同意を求めるような話の振り方をする。
「え? あ、うん……。そうだね」
やはり精神的に余裕がないのか、力なく呟き落とした柚木。確かに凛の言う通り、今回の事件はまるでマジックショーの――そこまで思考がいたった途端、頭の片隅にあった情報の欠片が一気に脳内を駆け巡る。
アリバイ――という意味合いでは【A】と【C】は一緒にいたし、首吊り死体の消失については、どちらも関与できなかったように見える。ただ、そもそもそ首吊り死体がどのようなプロセスを経て消失したのかを先に探る必要があった。それによっては【A】と【C】も容疑者になり得るかもしれない。
「それよりも先に、首吊り死体が消えた謎について考えたほうがいいだろう。そのうえで、誰がそれを実行できたのかを考えたほうがいい」
九十九が口にしようとしていたことを、丸々代弁するかのごとく口にする長谷川。どうにも、彼の発言には必死さのようなものが滲み出ている。この場を引っ張っていかなければならないというプレッシャーでも勝手に背負っているのか。やはり、彼にとって九十九は警戒すべき相手――ということなのだろう。
「でも、本当に何がどうなって首吊り死体が消えたんだろう。【A】達が目撃してから、現場となった部屋の前にたどり着くまで、ざっと多く見積もっても1分程度。その間に、首吊り死体を下ろして、何事もなかったかのように部屋を綺麗にして、しかも部屋には鍵をかけて、犯人は現場を去る。どう考えても時間が足りないと思うんだけど」
凛の言ったことが、今回の謎の全てと言っても過言ではないだろう。消失した首吊り死体。たった1分程度の間に、どのようにして死体は消失したのか。
「物理的に考えても、おそらく首吊り死体を下ろすだけでも1分じゃ足りないと思う。でも、実際に【A】達が駆けつけるわずかな間に、首吊り死体は消失した。しかもご丁寧に部屋の電気も消して、鍵までかけて――」
アカリがぽつりと漏らした。首吊り死体の消失。この謎が解けなければ、犯人が誰なのか絞り込むこともできない。果たして、どうやって首吊り死体は消えてしまったのか。
「まるでマジックショーだね。マジシャンでもなければ、何事もなかったように首吊り死体を消失させることなんてできないよ――ねぇ、柚木ッチ」
ずっと柚木が黙ったままだったこと、彼女としてはやや心配だったのかもしれない。凛が口を開いたついでに、柚木に同意を求めるような話の振り方をする。
「え? あ、うん……。そうだね」
やはり精神的に余裕がないのか、力なく呟き落とした柚木。確かに凛の言う通り、今回の事件はまるでマジックショーの――そこまで思考がいたった途端、頭の片隅にあった情報の欠片が一気に脳内を駆け巡る。
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