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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 一同から注目が集まる中、淡々と続ける眠夢。普段の印象が印象なだけに、その淡々とした姿が逆に気味悪く映る。

「考えてみてください。確かに【乙】には限定的なアリバイがあります。タクシーで飲食店に向かい、そこで飲食をして、またタクシーでホテルへと戻る。この間、タクシーの運転手や飲食店の店員と、目撃証言も多数です。でも、肝心な部分の情報が抜け落ちてしまっている。それは――」

 眠夢がそこで言葉を区切る。彼女の言わんとしていることはすでに分かってはいたものの、あえて口を挟まずに見守る九十九。独壇場だとばかりに続ける眠夢。

「それが何時から何時までの間だったのか……ということです」

 眠夢の言葉に凛が首を傾げる。どうやら、凛の思考はそこまでいたっていないらしい。まぁ、タクシーでホテルから出て、飲食店で飲み食いをし、そしてホテルに戻るまで一貫してアリバイがあるのは事実だし、一見して【乙】には完全なアリバイがあるように見えてしまう。けれども、そこには大きな穴があるのだ。ようやく九十九は口を挟んだ。

「核心を突いてしまうと、【乙】が【A】達と遭遇した時間帯と、【乙】が実際にホテルに戻った時間帯がイコールになるとは限らないということだろ?」

 眠夢は九十九の言葉に大きく頷いた。一見してアリバイがあるように見える【乙】であるが、しかし何時から何時までの間、ホテルから離れていたのかは明確にされていない。すなわち、【A】達とエントランスで遭遇した時間帯こそが【乙】がホテルへと戻った時間であるとは言い切れないのだ。もしかすると、数時間前にはホテルへと戻っていた可能性だってある。早めにホテルへと戻って【甲】を殺害し、騒動が終わる頃を見計らって、さも今しがた帰ってきたかのように、エントランスで【A】達と遭遇する――なんてことも可能なわけだ。

「その通りです。いくらアリバイがあっても、そのアリバイのある時間帯が曖昧である以上は【乙】を容疑者から外すべきではないと思います」

 事細かく説明するまでもない。今の九十九と眠夢のやり取りで、【乙】に絶対的なアリバイがあるわけでないことは伝わったようだ。しっかり、理解してもらう形で伝わってくれていると良いのだが。

「ってことは、その時間帯に一緒にいたことが確定しているのは【A】と【C】だけなんだから、それ以外の人間――【B】【丙】【乙】の3人は、犯行を実行に移すことが可能だったって考えでいい?」

 アカリが周囲に確認しながら話を進めるのは、彼女なりに舵取りをしているつもりだからなのであろう。第3問目にて、それぞれが気づき始めたらしい。このクイズ番組の残酷さと恐ろしさに。
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