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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 あくびを噛み殺し損ねた【A】は、中庭越しに見える客室の明かりを尻目に部屋へと戻った。なんだかんだで疲れていたのであろう。【A】と【C】がベッドに倒れ込むよ場面が映り、ゆっくりと画面がブラックアウト。深夜の静けさの中、ナレーションの声が響いた。

『【A】達が目撃したはずの首吊り現場。それは煙のように消えてしまいました。旅行に訪れた高揚感がゆえに見た悪夢――にしても【A】と【C】の両者がそれを目撃しています。まるでキツネに摘まれたような感覚を覚えながら、この日の【A】は眠りに就きます。しかし、翌日――』

 場面が変わり、眠っている【A】と【C】の姿を上から見下ろす形で撮影した映像が流れる。目覚ましが鳴り、そして【A】が手探りで音の出どころを探る。ただ、ホテルのアラームというものは、ベッドサイドと一体化していることが多いゆえに、探し当てられずにいるようだった。やむを得ないという形で【A】より先に【C】がベッドから体を起こすとアラームを止めた。

『おい、朝飯の時間だぞ』

 アラーム探索隊となっていた片手を伸ばした状態で、再び眠りに落ちた様子の【A】を起こす【C】。寝ぼけながらも起き上がり、しばらく目をこすっていた【A】であったが、ようやく目が覚めた様子で『あ、飯か――』と呟いた。

 それぞれが準備をして、揃って部屋の外に出た。すると、どうやら様子がおかしい。ホテル全体がざわついているというか、なんだか騒がしかった。まず、中庭らしき場所に数名の人の姿が見受けられた。数名の人は全く同じ格好をしており、左腕には【鑑識課】との文字が入った腕章をしている。

『鑑識課――ってことは警察か?』

 中庭の光景に足を止めているのは【A】と【C】だけではなかった。登場人物として紹介はされていないが【エキストラ】として出てきた高校生達が、窓にかじりつくようにして中庭の様子を見ていた。

 【A】の視線の先を追うようにしてカメラが動く。案の定というべきか【A】の視線の先には、左端の客室の窓があった。前日の夜、首吊りを見たはずの部屋の窓だ。しかし、窓にはカーテンがかけられており、中の様子は伺えない。カメラ越しでも、向こうの廊下の長さが短く見えるから不思議だ。

 前日の夜に見ていたものが見ていたものだったからであろう。【A】が足早に歩き出した。それに合わせてカメラのアングルもコロコロ変わるものだから、カメラ酔いしそうである。

『お、おい。どこ行くんだよ?』

 そう言いながら【C】は【A】を追いかける。本当ならば、そのまま昨日の部屋に向かうつもりだったのであろう。しかし、足早に向かっていたはずの【A】は、フロントを少し行ったところで足止めされてしまった。
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