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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】
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『このホテルに到着してから、各々が部屋で簡単にシャワーを浴び、集まったのが宴会場としても使われている広間でした。そこで【A】【B】【C】は夕食を頂いたのでした。ちなみに、翌朝の朝食バイキングの会場でもありました』
フロント前を通るのが気まずかったのであろう。わざわざ宴会場があるほうの廊下を通って部屋に戻る【A】達の背中を映しつつ、ナレーションが入った。元より単純な構造であるだけに、現場を想像するのは簡単だし、何よりも今回の再現映像は、実際に事件が起きた場所を舞台としてくれているおかげが、色々と分かりやすくていい。もっとも、首吊りをした人影が、短時間で姿を消してしまったというのは解せないが。
ナレーションが終わると、それを待っていたかのように【A】と【C】が廊下を折れ曲がる。宴会場のほうを回ってきたわけだから、自分達の部屋の廊下前へと出たことになる。
『――わっ!』
廊下を折れ曲がった直後、目の前に現れた人影に【C】が声を上げる。ほぼほぼ非常灯の明かりだけが頼りになるような暗さの廊下だ。曲がった途端に誰かと鉢合わせして、驚かない人間などいないだろう。【A】は声すら出なかったようだが、相手の人影も例外ではなかったようで『きゃっ!』と分かりやすく短い悲鳴を上げると、その場に尻餅をついた。何事か――といった様子で顔を見合わせた【A】と【C】だったが、その人影の正体を確認できたのか【A】が安堵の溜め息らしきものを漏らしつつ言った。
『なんだよ――【B】じゃないか。こんな時間に何を?』
尻餅をついていたのは【B】だった。格好は薄手のTシャツに、下はかなりの短さになるショートパンツ。彼女の寝巻きなのであろう。
『それはこっちの台詞だよ。私は――その、眠れなくて。フロントのほうに自動販売機があったはずだから、そこで飲み物でも買って来ようと思って』
やり取りから察するに【B】は先ほどの一連の騒動には気づいていないようだった。現場の隣の部屋で寝ていたはずの【丙】も、【A】達が騒ぎ立てるまで騒動に気づかなかった。やはり、ホテルの個室が防音となっているのだろうか。そう考えると、再現映像内で【A】達の聞いた女性の悲鳴らしきもののボリュームが、妙に小さかったことにも納得できる。そこに補足するかのごとくナレーション。
『実はこのホテル。個室の壁が厚く、音を通しにくい構造になっていました。何も知らないのであれば、わざわざ【B】に一連の騒動を話すべきではない。【B】には聞こえぬように打ち合わせをした【A】達は、あえてそのことに触れないようにしました』
フロント前を通るのが気まずかったのであろう。わざわざ宴会場があるほうの廊下を通って部屋に戻る【A】達の背中を映しつつ、ナレーションが入った。元より単純な構造であるだけに、現場を想像するのは簡単だし、何よりも今回の再現映像は、実際に事件が起きた場所を舞台としてくれているおかげが、色々と分かりやすくていい。もっとも、首吊りをした人影が、短時間で姿を消してしまったというのは解せないが。
ナレーションが終わると、それを待っていたかのように【A】と【C】が廊下を折れ曲がる。宴会場のほうを回ってきたわけだから、自分達の部屋の廊下前へと出たことになる。
『――わっ!』
廊下を折れ曲がった直後、目の前に現れた人影に【C】が声を上げる。ほぼほぼ非常灯の明かりだけが頼りになるような暗さの廊下だ。曲がった途端に誰かと鉢合わせして、驚かない人間などいないだろう。【A】は声すら出なかったようだが、相手の人影も例外ではなかったようで『きゃっ!』と分かりやすく短い悲鳴を上げると、その場に尻餅をついた。何事か――といった様子で顔を見合わせた【A】と【C】だったが、その人影の正体を確認できたのか【A】が安堵の溜め息らしきものを漏らしつつ言った。
『なんだよ――【B】じゃないか。こんな時間に何を?』
尻餅をついていたのは【B】だった。格好は薄手のTシャツに、下はかなりの短さになるショートパンツ。彼女の寝巻きなのであろう。
『それはこっちの台詞だよ。私は――その、眠れなくて。フロントのほうに自動販売機があったはずだから、そこで飲み物でも買って来ようと思って』
やり取りから察するに【B】は先ほどの一連の騒動には気づいていないようだった。現場の隣の部屋で寝ていたはずの【丙】も、【A】達が騒ぎ立てるまで騒動に気づかなかった。やはり、ホテルの個室が防音となっているのだろうか。そう考えると、再現映像内で【A】達の聞いた女性の悲鳴らしきもののボリュームが、妙に小さかったことにも納得できる。そこに補足するかのごとくナレーション。
『実はこのホテル。個室の壁が厚く、音を通しにくい構造になっていました。何も知らないのであれば、わざわざ【B】に一連の騒動を話すべきではない。【B】には聞こえぬように打ち合わせをした【A】達は、あえてそのことに触れないようにしました』
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